はじめに:J-ROCKシーンを牽引するソングライター・藤原基央
唯一無二の歌詞世界と革新的なサウンドで、J-ROCKシーンのトップを走り続ける〈BUMP OF CHICKEN〉。その全ての作詞作曲を手掛けるフロントマン、藤原基央さん。彼のギターサウンドは、バンドの音楽性の進化と密接に結びついており、多くのギターキッズに影響を与えてきました。
本記事では、ウェブ上の情報を徹底的にリサーチし、彼の足元を支えてきた歴代のエフェクターボードの秘密を紐解きます。キャリア初期の荒々しいディストーションサウンドから、アンプの鳴りを活かした近年の繊細なクランチサウンドまで、その変遷を機材と共に辿ります。
サウンドの土台となるギター&アンプ
藤原サウンドを語る上で欠かせないのが、長年連れ添ってきたギターと、そのポテンシャルを最大限に引き出すアンプです。メインギターは、1960年製のGibson Les Paul Special TV Yellow。P-90ピックアップがマウントされたこの一本が、彼のサウンドの原点となっています。近年ではFender TelecasterやGibson J-45などのアコースティックギターも多用します。
アンプは、キャリア初期はMarshallを使用していましたが、2002年頃からは歪み用にMatchless DC-30、クリーン用にBad Cat Black Cat 30という、最高峰のブティックアンプ2台を楽曲に応じて切り替えるスタイルを確立しています。
藤原基央サウンドの特徴とは?
藤原サウンドの真髄は、「ギター本体の鳴りを活かした、表現力豊かなクランチ」にあります。特にMatchlessやBad Catといった高品質なアンプを導入して以降は、エフェクターで過度に歪ませるのではなく、アンプが持つ絶妙な飽和感と、ピッキングの強弱に忠実に追従するレスポンスを重視しています。
そのため、エフェクターボードは歪みのキャラクターを使い分けるためのオーバードライブ数種類を核とし、楽曲に彩りを与える空間系、そしてシステムを安定させる高品質なユーティリティ類という、プロフェッショナルかつ合理的な構成が特徴です。
【完全網羅版】BUMP OF CHICKEN 藤原基央の使用エフェクター&関連機材まとめ
① 歪み系(オーバードライブ/ブースター/ファズ)
彼のサウンドの心臓部。時期によって様々なペダルが入れ替わってきました。
Klon / Centaur
概要
“伝説”と称されるオーバードライブ/ブースター。原音のキャラクターを一切損なうことなく、艶と張りのある極上のサウンドを加えることができるため、世界中のトップギタリストが愛用しています。
製品とサウンド考察
「ユグドラシル」期あたりから導入され、現在の藤原サウンドの核となっている一台。後述のBD-2に代わるメインの歪みとして、アンプをプッシュし、あの鈴鳴り感とサスティン豊かなクランチサウンドを生み出しています。特にMatchlessアンプとの相性は抜群と言えるでしょう。
BOSS BD-2 Blues Driver
概要
多くのギタリストのボードで目にする、定番のオーバードライブ。真空管アンプのようなレスポンスと、ピッキングニュアンスを忠実に再現する表現力が魅力です。
製品とサウンド考察
バンド結成初期から長年にわたり愛用されてきた、藤原サウンドの原点とも言えるペダル。「天体観測」や「カルマ」などで聴ける、歯切れが良くエッジの効いたギターリフは、このペダルの影響が大きいと考えられます。Centaur導入後も、キャラクターの違う歪みとして併用されていた時期がありました。
Honda Sound Works / DRIVE-F
概要
藤原氏のために製作されたカスタムオーバードライブの市販モデル。ディスクリート回路で組まれた、アンプライクでレスポンスに優れたサウンドが特徴です。
製品とサウンド考察
近年のボードで使用が確認されている、第三の歪みペダル。CentaurやBD-2とも異なる、太くストレートなドライブサウンドを持っており、楽曲に合わせた音色のバリエーションを確保する目的で導入されていると推測されます。
Free The Tone FB-2 FINAL BOOSTER
概要
プロミュージシャン向けの機材で知られるFree The Tone製のブースター。原音を重視したナチュラルなブーストが可能で、音量を持ち上げつつもサウンドの質感を損ないません。
製品とサウンド考察
2019年の「aurora ark」ツアーなどで使用。ギターソロなどで音量を持ち上げたり、アンプや他の歪みペダルをさらにプッシュしてサスティンを稼ぐための、クリーンブースターとして使用されていると考えられます。
Z.VEX / SUPER HARD ON
概要
1ノブのみというシンプルな構成ながら、ギターサウンドに強烈な張りを与えるブースター。入力インピーダンスが非常に高いため、後段に繋ぐペダルのサウンドを生き生きとさせます。
製品とサウンド考察
過去のボードで確認されています。常時ONにしてプリアンプ的に使用したり、ソロ時に踏み込んで強烈なブーストを得るなど、複数の用途で試されていた可能性があります。
BOSS OS-2 OverDrive/Distortion
概要
オーバードライブとディストーションのサウンドをCOLORノブ一つで自在にブレンドできるユニークな歪みペダルです。
製品とサウンド考察
キャリア初期に使用されていたとの情報があります。BD-2よりもハードな歪みが欲しい場面や、曲調に合わせて歪みのキャラクターを調整したい際に使用されていたと考えられます。
BOSS OD-1 OverDrive
概要
1977年に登場したBOSS初のオーバードライブ。非対称クリッピング回路による甘くマイルドなサウンドが特徴の歴史的名機です。
製品とサウンド考察
過去の使用機材リストに名前が挙がることがある一台。彼のサウンドのルーツを探る上で、試行錯誤していた時期の選択肢だったと推測されます。
BOSS OD-3 OverDrive
概要
デュアルステージ・オーバードライブ回路を搭載し、従来のODシリーズよりも豊かな倍音と太いサスティンを持つ現代的なモデルです。
製品とサウンド考察
こちらも過去の使用リストに見られるペダル。メインのBD-2とはキャラクターの違う、より粘りのあるオーバードライブサウンドを求めて試されていた可能性があります。
BLACK CAT SUPERFUZZ
概要
Maestro FZ-1をベースにした、轟音のような強烈な歪みを生み出すヴィンテージスタイルのファズペダル。アッパーオクターブが混じった個性的なサウンドが特徴です。
製品とサウンド考察
過去に使用されていた一台。「グロリアスレボリューション」のギターソロなどで聴けるような、暴力的で過激なファズサウンドが必要な際に投入されていた可能性があります。
Far East Electric / Original Custom Made
概要
ミュージシャンの要望に応じたカスタムメイドの機材を製作するブランド。詳細なスペックは不明ですが、藤原氏の好みに合わせてチューニングされたオーバードライブと思われます。
製品とサウンド考察
市販品では得られない、特定のサウンドや機能性を求めてオーダーされた一台。Honda Sound Worksのペダルと同様に、彼のサウンドへの深いこだわりを象徴する機材です。
② 空間系&モジュレーション系
サウンドに奥行きや彩り、揺らぎを与えるペダルたちです。
Eventide TIME FACTOR
概要
スタジオクオリティのサウンドを誇る高機能デジタルディレイ。2系統の独立したディレイを搭載し、複雑なディレイサウンドを構築できます。
製品とサウンド考察
2012年以降、彼のボードの空間系を担う中心的なペダル。BUMP OF CHICKENの楽曲に多用されるアルペジオに、透明感と美しい奥行きを与えるために不可欠な存在です。「(please) forgive」などで聴ける印象的なディレイサウンドで活躍していると考えられます。
BOSS TR-2 Tremolo
概要
サウンドを周期的に揺らすトレモロエフェクト。温かみのあるヴィンテージライクな揺れから、現代的な鋭い揺れまで作り出せます。
製品とサウンド考察
断続的にペダルボードに組み込まれているのが確認されています。「sailing day」のイントロや、「ギルド」のアルペジオなどで聴ける、心地よい揺らぎを持つギターサウンドで使用されている可能性が高いです。
Electro-Harmonix Small Clone
概要
Nirvanaのカート・コバーンが使用したことで有名な、定番のアナログコーラス。温かく深みのある独特の揺れが特徴です。
製品とサウンド考察
過去に使用情報がある一台。アルペジオやクリーントーンに幻想的な広がりと浮遊感を与える飛び道具として、実験的に導入されていた可能性があります。
MXR / Phase 90
概要
1ノブのシンプルな操作性が魅力の定番フェイザー。ギターサウンドに独特のうねるような動きを与えます。
製品とサウンド考察
こちらも過去の使用情報がある一台。ギターリフやソロにサイケデリックな雰囲気や、ジェットサウンドのような効果を加えたい時に使用されていたと考えられます。
③ その他(フィルター/ユーティリティ系)
サウンドメイクの補佐や、システムの中核を担う重要な機材です。
Jim Dunlop GCB-95F CRYBABY
概要
ワウペダルの代名詞的存在。FASELインダクターを搭載し、ヴィンテージライクでレンジの広いワウサウンドが得られます。
製品とサウンド考察
キャリアを通じて、必要に応じて使用されています。「ランプ」のギターソロなどで聴くことができる、歌うような表情豊かなワウサウンドは、このペダルによって生み出されています。
BOSS GE-7 Equalizer
概要
7バンドの周波数を調整できるグラフィックイコライザー。音質補正から特定の帯域を強調するブースターまで、多彩な使い方ができます。
製品とサウンド考察
「jupiter」期に、歪みペダルのようにゲインをブーストする目的で使用されていました。特定の帯域をプッシュし、独特のドライブサウンドを作り出していたユニークな使用例です。
Free The Tone PA-1QG
概要
プログラマブルな10バンド・イコライザー。MIDIにも対応し、楽曲ごとにセッティングを瞬時に呼び出すことが可能です。
製品とサウンド考察
近年のボードで確認されています。ギターを持ち替えた際の音質補正や、より緻密なサウンドメイクのために導入されている、プロフェッショナルな機材です。
KORG DTR-1 / DT-10 (チューナー)
概要
DTR-1はラックタイプ、DT-10はフロアタイプのクロマチックチューナー。プロの現場で要求される高い精度と視認性を誇ります。
製品とサウンド考察
キャリアを通じて、常に彼のシステムに組み込まれてきたチューナー。正確なピッチは、彼の作り出す美しいアンサンブルの基礎となっています。
Free The Tone PT-3D (パワーサプライ)
概要
完全に独立した電源供給が可能なパワーサプライ。各エフェクターにクリーンで安定した電源を供給し、ノイズの発生を極限まで抑えます。
製品とサウンド考察
近年のボードの心臓部。数々のエフェクターを使用してもサウンドがクリアなのは、こうした高品質なパワーサプライによる恩恵が非常に大きいです。
各種カスタムスイッチャー (A/B BOXなど)
概要
Honda Sound Works、Far East Electric、Free The Toneなど、複数のブランドに特注したA/Bボックスやアウトプットセレクター。
製品とサウンド考察
MatchlessとBad Catという2台のアンプを瞬時に切り替えたり、信号経路を最適化するための、システムの司令塔です。彼のサウンドへのこだわりが最も表れている部分の一つと言えます。
Klon Centaurは現在、中古市場で100万円近い価格で取引されることもあります。近年は、Centaurのサウンドを再現した高品質なクローンペダルが数多く登場しているので、それらを試してみるのが現実的な選択肢と言えるでしょう。
本記事は2025年7月時点で確認できた情報を基に作成しています。アーティストの機材は、ライブやレコーディングのたびにアップデートされる可能性があります。最新情報は公式サイトやSNSでチェックしましょう!
まとめ:アンプの鳴りを活かす、合理的で高品質なサウンドシステム
藤原基央さんの機材選びは、「ギターとアンプ本体のポテンシャルを最大限に引き出すこと」という一貫した哲学に基づいています。キャラクターの異なる高品質な歪みペダルをサウンドの核に据え、それを楽曲に応じて使い分ける。そして、システム全体はプロユースの信頼性が高いユーティリティ機材で固めることで、どんな環境でも常に最高のパフォーマンスを発揮できる、合理的かつ高品質なサウンドシステムが完成しているのです。
Q&A:よくある質問
Q. 藤原さんのサウンドの核となるエフェクターは何ですか?
時期によって異なりますが、キャリア初期〜中期はBOSSの「BD-2 Blues Driver」、そして「ユグドラシル」期以降はKlonの「Centaur」が、彼のサウンドの核となっていると言えます。どちらもピッキングのニュアンスを非常によく再現するペダルです。
Q. なぜMatchlessとBad Catという2台のアンプを使い分けているのですか?
主に、歪みサウンド用(Matchless)とクリーンサウンド用(Bad Cat)で使い分けるためです。エフェクターで作る歪みとは異なる、真空管アンプならではの豊かな歪みと、煌びやかなクリーンを両立させるための、プロフェッショナルな選択と言えます。
Q. 藤原さんのサウンドを再現するには、何から揃えるべきですか?
高価な機材が多いですが、まずはサウンドのキャラクターを決定づける「BD-2」や、近年人気の高い「Centaur系のクローンペダル」を手に入れるのが近道です。同時に、ギター側のボリュームやトーン、そして自身のピッキングの強弱でサウンドをコントロールする意識を持つことが、彼のサウンドに近づく最も重要な要素と言えるでしょう。