「PS-2」と聞いてPlayStation 2を思い浮かべた方は、立派な平成を生きた民です。今回紹介するのはゲーム機ではなく、1987年に登場したBOSS PS-2 Digital Pitch Shifter/Delayです。
PS-2は、デジタルディレイとオクターバーを無理やり一つに押し込んだようなペダルです。現代のピッチシフターほど滑らかでも正確でもありません。しかし、音程が少し不安定に動き、古いデジタル音が混ざるからこそ、普通のペダルでは出しにくい面白い音になります。

所有するBOSS PS-2 Digital Pitch Shifter/Delay。青い筐体にピッチシフターと最大2秒のディレイを収めています。
ヴィンテージBOSSが誇る問題作
BOSS PS-2は1987~1993年に販売された、同社初の連続可変ピッチシフターです。それ以前のOC-2は1オクターブ下を加える機種でしたが、PS-2は原音より1オクターブ下から1オクターブ上まで、途中の音程も設定できます。
BOSS公式は近年、PS-2の特徴を「独特な8ビットのヴィンテージ・デジタル音」と紹介しています。発売当時は小型化の成果だった回路が、現在では粗く不安定な音を作るための個性として再評価されているわけです。
私には、ヴィンテージBOSSが誇る問題作と呼びたくなる音です。ここでいう問題作は、壊れているという意味ではありません。普通のディレイやオクターバーとして使うだけでは終わらず、設定次第で音程の分からない反復音や、機械がうなっているような音まで出せるからです。
参考 時代とともにシフトする:BOSSピッチ・ペダルの歴史BOSS Articles 参考 PS-2 SpecificationsRoland Support6つのモードを搭載

BALANCE、F.BACK、FINE/MANUAL、MODEの4ノブ。MODE 1~3がディレイ、4~6がピッチシフトです。
| MODE | 機能 | 調整範囲 |
|---|---|---|
| 1 | 短いディレイ | 30~125ms |
| 2 | 中程度のディレイ | 125~500ms |
| 3 | 長いディレイ | 500ms~2秒 |
| 4 | 手動ピッチシフト | 1オクターブ下~1オクターブ上 |
| 5 | オクターブ上 | +1オクターブ固定 |
| 6 | オクターブ下 | -1オクターブ固定 |
MODE 1~3ではFINE/MANUALノブがディレイタイムを決めます。MODE 4では音程を連続的に動かし、MODE 5と6では1オクターブ上または下へ固定されるため、このノブは使いません。
BALANCEは原音とエフェクト音の割合です。中央でほぼ同量、左へ回し切ると原音のみ、右へ回し切るとエフェクト音のみになります。
F.BACKは、ディレイでは反復回数を調整します。ピッチシフトでは、音程を変えた音をもう一度ピッチシフト回路へ戻します。右へ回すほど、元の音から遠く離れた音程が何度も重なり、PS-2らしい異常な音になります。BOSSの取扱説明書にも、ピッチシフト音がさらに変化して「unusual effect」を作ること、上げると発振する場合があることが記載されています。
参考 BOSS PS-2 Owner’s ManualRolandデジタルディレイとオクターバーを混ぜたような音
PS-2のピッチシフト音は、入力した音へ即座に正確な音程を足す現代機とは違います。弾いた音を読み取り、古いデジタル回路で音程を変える過程がはっきり聞こえます。
単音をゆっくり弾くとオクターバーとして使えますが、コードや速いフレーズでは音程の追従が乱れ、細かなデジタル音が混ざります。普通の機材では欠点になる部分です。しかし、PS-2ではその崩れ方を含めて音色になります。
特にMODE 5または6でF.BACKを上げると、1オクターブ変化した音がさらに同じ方向へ動き、現実の楽器らしくない高音や低音が重なります。BALANCEを右へ寄せれば、原音の輪郭を消して効果音だけを前へ出せます。
MODE 1は金属的なダブリングに向く
30~125msの短いディレイは、同じ演奏を少し遅らせて重ねたような厚みを作ります。反復を少なくすると普通のダブリングですが、F.BACKを上げると硬く細い反復が重なり、金属板を鳴らしたような響きへ変わります。
MODE 3は2秒の異常な反復を作れる
MODE 3では最大2秒まで伸ばせます。1987年のBOSSコンパクトで2秒のディレイは初めてでした。現代のディレイより反復音の帯域が狭く、公式仕様でもエフェクト音は80Hz~6kHzです。そのため、原音をそのまま複製するのではなく、少し細く古いデジタル機器を通ったような音で戻ってきます。
F.BACKを発振寸前まで上げ、FINE/MANUALを動かすと、反復音の高さが急に変わります。曲の後ろへ自然な余韻を加えるより、曲間やノイズ部分で音そのものを壊す使い方が似合います。
バイパス音はかなり細く感じる
私の所有個体では、PS-2をオフにしていても、直結したときと比べて音がかなり細く感じられます。高音の角が変わり、低音の押し出しも弱くなる印象です。
PS-2はトゥルーバイパスではなく、オフ時も内部のバッファー回路を通ります。バッファーは長いケーブルによる高音の減少を防ぐ役割がありますが、古い個体では回路の設計、部品の経年変化、前後の機材との組み合わせによって音の変化を感じることがあります。
公式の直接音の周波数特性は10Hz~100kHzなので、仕様だけを見れば大きく帯域が狭い設計ではありません。したがって「すべてのPS-2は必ず音痩せする」とは断定できません。私の個体と接続環境では明確に気になる、という実機の評価です。
対策としては、PS-2をトゥルーバイパス式のループスイッチャーへ入れ、使わないときは信号経路から完全に外す方法が確実です。購入時はエフェクト音だけでなく、同じ音量で直結時とバイパス時を比較することをおすすめします。
TUNER OUTは音程合わせの補助
PS-2にはTUNER OUTがあります。ピッチシフトのMODE 4~6でエフェクトをオンにすると、変化させた音程をチューナーで確認するための端子です。
MODE 4で半音や完全5度などを作るとき、耳だけで合わせるよりチューナーを使う方が確実です。ただし取扱説明書によると、ディレイのMODE 1~3をオンにしている間はTUNER OUTから信号が出ません。通常の常時接続チューナー出力と同じ感覚では使えない点に注意してください。
日本製個体と内部基板

所有個体の底面は青ラベルで、Products of Roland、MADE IN JAPANの表記があります。

内部基板のBOSSロゴ入りIC。表面にはR15229843、M74007などの表示があります。
PS-2の内部は、一般的なアナログ歪みとはまったく違います。大きなBOSSロゴ入りICと、表面実装部品を載せた子基板を組み合わせ、小さな筐体でピッチ変換と最大2秒のディレイを実現しています。

細かな表面実装部品を載せたデジタル基板。1980年代のコンパクトペダルとして複雑な構成です。
写真からICの表示は確認できますが、カスタムIC内部の処理内容までは分かりません。部品番号だけから音質を決めつけず、BOSS公式が説明する8ビット処理と、実際に聞こえる粗い音を分けて考えるのが安全です。
電源は9V・60mA

所有個体の電源端子。ラベルはBOSS PSAアダプターを指定しています。
公式仕様は9V電池またはBOSS PSAシリーズ、消費電流60mAです。古いアナログBOSSより電流を多く使うため、弱った電池では動作や音が不安定になる可能性があります。
パワーサプライを使う場合は、9Vセンターマイナスで60mA以上を供給できる端子を選びます。所有個体のラベルもPSA指定です。古いBOSSだからと一律にACA用と判断せず、個体の表示と公式仕様を確認してください。
参考 PS-2 Recommended Power SupplyRoland SupportPS-2が向く人、向かない人
向く人
- きれいすぎない古いデジタル音が欲しい
- 音程の追従が崩れる瞬間も表現として使いたい
- ピッチシフトへFEEDBACKをかけた異常な反復音が欲しい
- シューゲイザー、ノイズ、実験的な曲で特殊効果を作りたい
- 最大2秒の細く硬いヴィンテージ・デジタルディレイが好き
向かない人
- コードでも正確に追従するピッチシフターが必要
- 自然なハーモニーや移調を作りたい
- 透明なバイパス音を最優先したい
- タップテンポや設定保存が必要
- 1台で現代的な多機能ディレイをまかないたい
ピッチシフター、ハーモナイザー、オクターバーの役割の違いはこちらで整理しています。
普通のデジタルディレイを探している場合は、現行機を含む比較記事も参考にしてください。
中古で確認したいポイント
- 6つのMODEすべてで音が出るか
- FINE/MANUALを動かしたときに音程や時間が変化するか
- F.BACKを上げたときに反復が増えるか
- バイパス時の音痩せが許容範囲か
- TUNER OUTがピッチシフト時に動作するか
- 電池とPSA電源の両方で安定して動くか
- ノブ、ジャック、フットスイッチに大きなガリや接触不良がないか
生産終了から30年以上が経ったデジタル機なので、故障時にカスタムICを簡単に交換できるとは限りません。音が面白くても、全モードの動作確認ができない個体は慎重に判断した方がよいでしょう。
まとめ
BOSS PS-2は、1987年に登場した同社初の連続可変ピッチシフターで、3種類のピッチシフトと最大2秒のデジタルディレイを備えています。
現在の機材のような滑らかさや正確さはありません。ところが、8ビットらしい粗い音、追従が乱れる瞬間、ピッチシフトへFEEDBACKをかけた異常な反復こそが、PS-2を代えの利かないペダルにしています。
私の個体ではバイパス時の音痩せが大きな弱点です。それでも、ループスイッチャーで必要なときだけ呼び出せば、ヴィンテージBOSSが誇る問題作として実戦投入できます。普通のディレイやオクターバーに飽きた人へ試してほしい、正真正銘の変態系ペダルです。
FAQ
- BOSS PS-2はPlayStation 2と関係がありますか?
- 関係ありません。BOSS PS-2は1987年登場のギター用Digital Pitch Shifter/Delayです。PS-2からゲーム機を連想した方は、平成を生きた民と言えそうです。
- PS-2はディレイとピッチシフトを同時に使えますか?
- MODEでどちらか一方を選びます。MODE 1~3はディレイ、4~6はピッチシフトです。ただしピッチシフト側でもFEEDBACKにより変化した音を繰り返せます。
- PS-2の最大ディレイタイムは?
- 最大2秒です。MODE 1は30~125ms、MODE 2は125~500ms、MODE 3は500ms~2秒をFINE/MANUALノブで調整します。
- PS-2はバイパス時に音痩せしますか?
- 所有個体では直結時よりかなり細く感じます。ただし公式の直接音の周波数特性は広く、すべての個体で同じとは断定できません。購入時に同じ音量で比較してください。
- PS-2の電源は9Vセンターマイナスですか?
- はい。公式仕様は9V電池またはBOSS PSAシリーズで、消費電流は60mAです。パワーサプライでは9Vセンターマイナス、60mA以上の端子を使います。

