Noel Victoireは、CMOSというデジタル回路用ICをアナログの増幅回路として使い、独特の歪みを作るディストーションです。低音は量感を保ちながらまとまり、高音には輪郭があります。ゲインを上げると荒さは出ますが、音が無秩序に崩れる感じではありません。
実機を開けると、Texas Instruments製CD4069UBE、黄色いMallory 150シリーズのコンデンサ、布被覆線、端子板を使った配線が確認できました。部品の選び方だけでなく、リード線の曲げ方やハンダ付けまで非常に丁寧です。音と作りの両方に魅力があるペダルだと思います。

青みのある灰色の筐体に3つのノブを備えたNoel Victoire。外観は控えめですが、音も内部構造も個性があります。
Noel Victoireは4段構成のCMOSディストーション
Noelの製品説明によると、Victoireは1個のCMOS ICに入っている6つの回路のうち4つを増幅に使い、各段の前後で高音と低音の整え方を検討して作られています。多くの調整ノブを付けるのではなく、基本の3ノブへ絞った設計です。
同じ設計から、オーバードライブ寄りのVoileと、より歪みが強いVictoireへ分けられました。Victoireはクランチからディストーションまでを担当し、Voileより低音を引き締め、高音の輪郭を強くしたモデルと説明されています。
参考 Noel Victoire製品説明マークスミュージック
筐体中央のNoelロゴ。ノブ名を大きく表示しない、落ち着いた外観です。
CMOSの歪みとは
CMOSは、もともとデジタル機器で0と1を切り替えるために使われる回路方式です。Victoireでは、その中の「インバーター」と呼ばれる信号を反転する部分を、ギター信号の増幅に利用しています。
増幅できる範囲を超えるまで信号を入れると、波形の上下が丸められ、歪みが生まれます。一般的なオペアンプとダイオードを組み合わせた歪みとは反応が異なり、ピッキングの強さに応じて、クランチから少しファズに近い荒さまで連続的に変わるのが特徴です。
「CMOSだから必ず同じ音」になるわけではありません。増幅を何段使うか、各段へどれだけ信号を入れるか、高音と低音をどこで減らすかによって、最終的な音は大きく変わります。
実機で感じる音
Victoireは、軽く歪ませても線が細くなりにくいペダルです。低音には厚みがありますが、強く弾いたときに音が必要以上に膨らまず、コードの頭が見えやすく感じます。高音は丸く隠れるタイプではなく、ピックが弦へ当たる瞬間をはっきり出します。
ゲインを上げると、滑らかなオーバードライブよりも粒の粗いディストーションへ進みます。さらに深く歪ませると、ファズを思わせる密度と押し出しが加わります。それでも低音と高音の位置が分かりやすく、単に潰れて大きくなるだけではありません。
私の実機ではノイズも少なく、歪ませた和音のまとまりも良好です。音の太さと反応の速さが両立しており、部品や構造を知らずに弾いても、かなり出来の良い歪みだと感じます。
内部は部品もハンダ付けも丁寧

Victoireの内部。黄色いMallory 150シリーズのコンデンサ、布被覆線、端子板を使った立体的な配線が見えます。
所有機では、増幅部を組んだ端子板と、ノブや周辺回路をまとめた基板を分けた構造が確認できます。アンプのような立体配線とプリント基板を組み合わせた作りです。
黄色い軸型コンデンサにはMallory 150の表示があり、抵抗には茶色い円筒形のカーボンコンポジション抵抗が使われています。布被覆線も含め、価格だけを優先した構成ではありません。
ただし、部品の銘柄だけで音の良さは決まりません。この個体で特に印象的なのは、部品の足が整然と曲げられ、配線が必要な長さへそろえられ、ハンダが端子へきれいに回っていることです。振動するエフェクターでは、部品を機械的に支える組み立ての丁寧さも信頼性につながります。

端子部分の拡大。布被覆線の取り回しとハンダ付けは丁寧で、製作技術の高さが分かります。
設計者のSho Iwata氏もインタビューで、部品の足を曲げる順序や下準備を含め、きれいに組むための工程を説明しています。Mallory 150Mやカーボンコンポジション抵抗などは、構造、入手性、音を含めて選んだと述べています。
参考 Sho Iwata / Noel インタビューPedal Shop CULTCD4069UBEを確認

所有機に搭載されたTexas Instruments製CD4069UBE。交換できるソケットへ装着されています。
所有機のICには、Texas Instrumentsのロゴと「CD4069UBE」の表示があります。CD4069UBEは、1個の中に6つのインバーターを収めたICです。末尾の「UB」は、内部に余分な増幅段を持たないアンバッファード型を示し、アナログ増幅へ利用しやすい種類です。
製品説明にある4段の増幅と、実機のCD4069UBEという組み合わせから、VictoireがCMOSを単なるスイッチ制御ではなく、音を歪ませる中心部分に使っていることが分かります。
Tube Sound FuzzやRed Llamaが元ネタなのか
CMOSの歪みと聞いて、電子工作家・著者のCraig Anderton(クレイグ・アンダートン)が発表したTube Sound Fuzzや、Way Huge Red Llamaを連想する人は多いと思います。
Tube Sound Fuzzは1977年の『Guitar Player』誌で紹介され、1978年刊行のAnderton著『Electronic Projects for Musicians』にも収録された自作回路です。CD4049というCMOS ICのインバーターを2段使って歪みを作ります。後のRed Llamaは、この回路を基に部品の値などを調整したものとして知られています。
VictoireもCMOSインバーターをアナログの増幅へ使うため、基本となる発想は近いです。一方、所有機はCD4069UBEで、製品説明では4段構成です。CD4049を2段使うTube Sound FuzzやRed Llamaとは、少なくともICと増幅段数が異なります。
共通しているのは、CMOSインバーターをアナログの増幅へ使う基本的な発想です。Victoireは使用ICと増幅段数が異なるため、Tube Sound Fuzzそのものの派生回路というより、同じCMOSディストーションの系譜にあるNoel独自の設計と捉えるのが適切です。
参考 Yacana CMOS Drive Technical DocumentationAion FX電源は9Vから9.8Vのアダプター専用
Victoireは電池用スナップを搭載せず、9Vから9.8Vのアダプターだけに対応します。CMOS回路は電源電圧によって歪み方が変わりやすく、電池が消耗すると狙った音から離れるため、使用電圧を狭く定めた設計です。
一般的な9Vペダルと同じ感覚で、規定外の電圧を試すのは避けた方が安全です。中古で入手した場合は、付属説明書や販売店の仕様で対応アダプターと極性を確認してから接続してください。

底蓋の内側には「Noel Victoire #20」と読める手書き表記があります。
向いている人と注意点
Victoireが向いているのは、一般的なオペアンプ式オーバードライブとは違う歪みが欲しい人です。低音の厚さ、輪郭のある高音、ゲインを上げたときのファズに近い荒さを1台で使えます。内部の部品や組み立てまで含めて楽しみたい人にも魅力があります。
反対に、透明感を保ったまま少しだけ音量を上げる用途や、低音を大きく削ってタイトにするブースター用途が中心なら、別のオーバードライブの方が合わせやすい場合があります。また、電池では動かせず、使用電圧の範囲も狭い点は確認が必要です。
定番のオーバードライブと選び方はこちらで紹介しています。
ディストーション全体から比較したい場合はこちらも参考にしてください。
まとめ
Noel Victoireは、CD4069UBEのインバーターを4段使ったCMOSディストーションです。クランチから力強いディストーションまで対応し、ゲインを上げるとファズに通じる荒さも表れます。低音が太いまま輪郭を保ち、高音にはピッキングを伝えるエッジがあります。
内部はMallory 150シリーズのコンデンサ、カーボンコンポジション抵抗、布被覆線を使った立体配線で、ハンダ付けも非常に丁寧です。良質な部品を並べただけではなく、それをきちんと組み上げている点に価値があります。
Tube Sound FuzzやRed Llamaとは、CMOSインバーターを歪みに使う発想を共有しています。ただしVictoireはCD4069UBEの4段構成であり、CD4049を2段使う両機とは違います。似た系譜の音を、Noel独自の設計と作りで仕上げたペダルとして見るのがよいでしょう。
FAQ
- Noel VictoireはRed Llamaのクローンですか?
- クローンと確認できる資料はありません。どちらもCMOSインバーターで歪みを作りますが、VictoireはCD4069UBEの4段構成、Red Llama系はCD4049の2段構成で、ICと増幅段数が異なります。
- CMOSディストーションとは何ですか?
- 本来はデジタル信号を扱うCMOS ICのインバーターを、ギター信号の増幅へ利用する歪みです。増幅できる範囲を超えたときの波形変化を使い、クランチからファズに近い荒さまで作ります。
- CD4069UBEとCD4049UBEの違いは何ですか?
- どちらも6つのインバーターを収めたCMOS ICですが、内部構成や端子配置が異なる別部品です。Victoireの所有機はCD4069UBE、Tube Sound FuzzとRed Llama系はCD4049を使います。
- Noel Victoireは電池で使えますか?
- 使えません。電池用スナップはなく、9Vから9.8Vのアダプター専用です。CMOS回路の音が電圧で変化するため、電池の消耗による変化を避ける設計です。
- Noel Victoireはオーバードライブ、ディストーション、ファズのどれですか?
- メーカー上の分類はディストーションです。低いゲインではクランチ、高くすると強いディストーションになり、設定によってはファズに近い荒さも加わります。

