Maxon AD-9は、1980年代前半の国産アナログディレイです。写真の所有個体にはMN3205というBBDが使われており、反復するたびに高音が丸くなる、古いアナログディレイらしい音を楽しめます。
写真の個体は、銘板に「Maxon」と記されたMaxonブランドのAD-9です。Maxonは当時、Ibanezブランドの多くのエフェクターを設計・製造していました。ブランド表記は異なりますが、Maxon AD-9とIbanez AD9は同じ時代と設計背景を持つ兄弟機といえる関係です。

塗装剥がれや傷の多いMaxon AD-9の所有個体。長年使われた外観もヴィンテージ機らしい雰囲気があります。
写真の個体はMaxon AD-9

踏板の銘板にはMaxon、AD-9、Analog Delayと記されています。
Maxonは日伸音波製作所のエフェクターブランドです。Maxon側の資料によると、星野楽器はMaxonの設計をライセンスし、Ibanezブランドとして海外へ展開しました。Maxonは2002年初頭まで、多くのIbanez製品の設計・製造を担当していたと説明しています。
1983年のIbanez公式「Sound Effects」カタログにも、ピンク色のIbanez AD9が掲載されています。外装のブランド名は違いますが、写真のMaxon AD-9とIbanez AD9は同じ時代と設計背景を持つ兄弟機として捉えると分かりやすいです。
参考 1983 Ibanez Sound Effects Catalog(英語PDF)Ibanez/星野楽器 参考 MaxonとIbanezの関係・製品FAQ(英語)MaxonFX製造年は1983~1984年頃と推定

電解コンデンサーには「8342」と読める印字があります。一般的な年月週コードの読み方なら1983年第42週を示す可能性があります。
この個体の電解コンデンサーには「8342」と読める印字があります。これを一般的な「西暦下2桁+製造週」のコードとして読むなら、1983年第42週に作られた部品という解釈です。ペダル本体は、それより後に組み立てられた可能性が高くなります。
また、所有者が確認した裏面ラベルは、いわゆるホワイトラベルです。この特徴から1983~1984年頃の個体と見ることもできます。Ibanezの公式カタログでAD9が1983年に掲載されていることも、この推定と矛盾しません。
ただし、コンデンサーの製造時期と完成品の組立時期は同じとは限りません。部品交換の有無やラベルだけでは正確な月まで確定できないため、製造年は1983~1984年頃と推定するのが妥当です。
MN3205を使ったBBDアナログディレイ

基板にはMAXON MP-AD1401Aの表記があり、MN3205、MN3102、4558Dなどを確認できます。
写真では、ディレイ信号を保持して順番に送るBBDのMN3205と、それを動かすクロックドライバーMN3102を確認できます。基板自体にも「MAXON MP-AD1401A」と印刷されています。
BBDは、たくさんの小さな容器へ水を順番に渡すバケツリレーのように、信号を少しずつ遅らせる部品です。信号を完全なまま保存するデジタル方式とは違い、受け渡しを繰り返すうちに高音や細かな輪郭が少しずつ失われます。
この劣化は測定上の高音質とは逆方向ですが、ギターでは反復音が原音の後ろへ引っ込みやすくなります。BOSSもBBDを使うDM-2について、帯域を制限したことが温かく包み込む音につながったと説明しています。
参考 BOSS ディレイ・ペダルの歴史BOSS Articles3つのつまみで素早く音を決められる
| つまみ | 役割 |
|---|---|
| DELAY TIME | 原音から反復音が返るまでの時間 |
| REPEAT | 反復する回数。上げると発振することがある |
| DELAY LEVEL | 原音へ混ぜる反復音の大きさ |
操作は現在のアナログディレイとほとんど変わりません。まずREPEATを低め、DELAY LEVELを9時前後にして、DELAY TIMEで空間の広さを決めると扱いやすいです。
Ibanez公式サポートで配布されているAD9取扱説明書では、公称ディレイタイムは20~300msです。OUTは通常、原音とディレイ音を一緒に出力します。DRY OUTも接続すると、DRY OUTから原音、OUTからディレイ音を分けて出せます。
参考 AD9 Owner’s Manual(日本語を含むPDF)Ibanez/星野楽器私の個体はディレイタイムが短め
所有個体はかなり使い込まれており、ディレイタイムは公称の最大値より短く感じます。ヴィンテージのアナログディレイでは、部品の経年変化だけでなく、クロックやBBDの調整状態によっても実際の長さ、ノイズ、歪み方が変わります。
内部トリマーを回せば単純に長くなるとは限りません。Maxon側も、内部トリマーの多くはオシロスコープ、テスター、信号発生器を使って調整する部分で、むやみに触らないよう案内しています。中古個体のディレイが短い場合は、元の位置を記録せず自分で回すより、アナログディレイを扱える修理店へ相談する方が安全です。
私の場合は、短いことを欠点として追い込むより、この個体の個性として使っています。
リバーブやエコーの代わりに薄く足すと良い
このAD-9で長いディレイフレーズを作るのは得意ではありません。私が良いと感じるのは、DELAY TIMEを短め、REPEATを1~2回程度、DELAY LEVELを控えめにした使い方です。
音の後ろへ短い反射音が付くため、リバーブを深くかけるより輪郭を残しながら空間を作れます。スラップバックほど反復音を前へ出さず、エコーの存在が分からない程度まで薄く混ぜても効果があります。
反復音は高域が丸く、少しずつ崩れながら消えていきます。デジタルディレイのように同じ形の音が戻ってこないため、ブルースや古いロックの音作りにも自然になじみます。これが私の感じる、この個体の温かみです。
BOSS DM-2と並ぶ魅力がある
BOSS DM-2も1981年に登場したBBD方式のアナログディレイで、公称最大300msです。どちらも長時間ディレイより、短い反復音を演奏へ溶け込ませる用途に魅力があります。
音が同じという意味ではありません。個体差や整備状態の影響も大きいため、優劣を一台だけで決めることもできません。それでも私にとってAD-9は、BOSS DM-2と並んで名前を挙げたい1980年代のアナログディレイです。
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現行品で近い方向を選ぶならIbanez ADMINI
ヴィンテージAD-9は整備状態による差が大きく、故障時の修理も簡単ではありません。古い個体そのものにこだわらず、同じような温かいアナログディレイを日常的に使いたいなら、私はIbanez ADMINIもおすすめします。
Ibanez公式はADMINIを「AD9直系のディレイ・サウンド」と説明しています。20~600msへ延長され、現在一般的な9Vセンターマイナス電源とトゥルーバイパスに対応します。
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アナログディレイの現行機を用途別に比較した記事もあります。
中古購入時の確認ポイント
- 写真のブランドがMaxonかIbanezか
- 裏面ラベル、シリアル、内部部品の写真があるか
- DELAY TIMEを最大にしたとき、実際にどこまで伸びるか
- REPEATを上げたときに不自然なノイズや音切れがないか
- OUTとDRY OUTの両方が動作するか
- スイッチ、LED、電池端子、DC端子が正常か
- 内部トリマーや部品に調整・交換の痕跡がないか
特に「音は出る」という説明だけでは、最大ディレイタイムやBBDの状態まで判断できません。可能なら、各つまみを最小から最大まで動かした動画や録音を確認します。
まとめ
写真の所有個体は、IbanezロゴではなくMaxonロゴを持つヴィンテージAD-9です。電解コンデンサーの「8342」とホワイトラベルから、1983~1984年頃の製造と推定できますが、正確な製造年までは断定できません。
内部ではMN3205 BBDとMN3102クロックドライバーを確認でき、短いディレイを温かく丸める、古き良きアナログディレイの音がします。私の個体はディレイタイムが短めですが、リバーブやエコーの代わりに薄く足す用途では、むしろ演奏へ自然になじみます。
長いディレイや正確なテンポ同期を求める機種ではありません。反復音が少しずつ崩れ、原音の後ろで消えていく質感を楽しむ一台です。



