メタリカのジェームズ・ヘットフィールドの音は、20台のエフェクターを並べれば再現できるものではありません。中心になるのは、ハムバッカー搭載ギター、Mesa/BoogieやFractalのハイゲイン、ノイズ管理、そして強く正確な右手です。
まず押さえたい音作りの中心
ジェームズのリズムサウンドは、歪みの量だけでなく、音の立ち上がりと不要な低音を整理することで近づきます。
| 要素 | 近づける考え方 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| ギター | ブリッジ側ハムバッカー。強く弾いても低音が広がりすぎないもの | 形だけExplorer系にして、ピックアップと調整を無視する |
| アンプ/モデラー | Mesa Mark系やタイトなハイゲインを基準にする | ゲインを最大にしてピッキングの輪郭を消す |
| EQ | 低音を出しすぎず、中音を完全には消さない | 自宅の単音だけで極端なドンシャリにする |
| ノイズ管理 | 演奏していない瞬間だけを静かにする | ゲートを強くしすぎて音の伸びを切る |
| 演奏 | ブリッジ寄りのパームミュートと一定したダウンピッキング | 機材だけで速さと粒が揃うと考える |
アンプのGAINは半分前後から始め、BASS、MIDDLE、TREBLEを12時に置いて調整します。低音が大きい場合はGAINやBASSを下げ、音が細い場合はMIDDLEを少し戻してください。録音では複数テイクを重ねた音と、部屋でアンプ1台を鳴らした音も同じにはなりません。
年代で変わるジェームズの機材
長い活動歴の中で、スタジオ、ツアー、曲によって機材は変わっています。すべてを1枚のペダルボードとして混ぜないことが重要です。
| 時期・資料 | 確認できる中心機材 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 初期〜1980年代 | Electra OGV、初期ESP MX、Gibson Explorer系、Mesa/Boogie Mark IIC+ | 初期アルバムの機材は証言や後年資料が多く、ペダルの細部には未確認部分がある |
| 2011年のMesa公式ライブリグ | Triaxis×2、2:90、Mesa Amp Switcher、GCX Expander、DBX Quad Gate、TC Electronic G-Major、Mesa 4×12 | 歪みの中心は小型ペダルではなく、プリアンプ、パワーアンプ、ラック制御 |
| 2014年以降のライブ | Fractal Axe-Fx系へ移行。ギターテックと本人が音と弾き心地を調整 | 同じMetallicaの音でも、年代によって実アンプとモデラーの構成が異なる |
| 2023年『72 Seasons』制作 | Copper Top Snakebyte、So What!、EET FUK、Electra OGV、Fractal Axe-Fx | 本人インタビューと制作担当者の説明で、ギターと録音用モデラーを確認できる |
Mesa/Boogieの公式アーカイブでは、Mark IIC+が初期Metallica作品で重要な役割を持ち、2011年のジェームズ用ラックではTriaxisを2台使用したと説明されています。1台はMark IIC+モード、もう1台はクリーン用で、2:90パワーアンプとMesa 4×12へ送る構成です。
参考 Metallica Live RigsMESA/Boogie公式アーカイブFractal公式もMetallicaを使用アーティストとして掲載しています。2014年のAxe-Fx II移行時には、ジェームズのギターテックが本人の反応を聞きながら調整したと説明しており、2019年にはツアー技術者がAxe-Fx IIIへの移行に言及しています。ツアー機材は更新されるため、Axe-Fxの世代を全時期へ固定して考えません。
参考 Fractal Audio Artists|MetallicaFractal Audio Systems公式 参考 Metallica using Axe-Fx on stage|Jamesのギターテックによる説明Fractal Audio公式フォーラム 参考 Metallica and Axe-Fx III|ツアー技術者の移行報告Fractal Audio公式フォーラム使用ギター
ESP公式のJames Hetfieldページでは、Snakebyte、Iron Cross、Vultureなどのシグネチャーモデルを確認できます。Metallica公式が紹介する本人の書籍『Messengers』には、Electra OGV、初期ESP MX、Snakebyte、Ken Lawrence製カスタム、ヴィンテージGibsonなど40本以上が収録されています。
参考 James Hetfield Signature GuitarsESP Guitars公式 参考 Messengers: The Guitars of James HetfieldMetallica公式72 Seasonsで本人が挙げたギター
2023年のMetallica公式インタビューで、ジェームズ本人は『72 Seasons』の中心になったギターとしてCopper Topと呼ぶSnakebyteを挙げています。So What!、EET FUK、Metallica結成当初から所有するElectra OGVも使ったと説明しています。
参考 James Hetfield: The 72 Seasons InterviewMetallica公式代表的なギターを簡単に分けると、次のようになります。
- ESP Snakebyte:本人が設計した代表的なシグネチャー。現行ライブや近年の制作で確認しやすい
- ESP MX-220/MX-250系:初期から中期のExplorer系シェイプとして知られる
- ESP Iron Cross/Truckster/Vulture:年代ごとに登場する本人仕様のモデル
- Electra OGV:Metallica初期から所有し、『72 Seasons』でも再使用したと本人が説明
- Gibson Explorer系:1980年代の写真や記録で確認できる
- Ken Lawrence製カスタム:本人のコレクションとステージで知られるハンドメイド機
EMG JH Setとピックアップ
Metallica公式は、James Hetfield Signature Snakebyteに本人仕様のEMG JH Setが搭載されていると説明しています。JH Setはネック用とブリッジ用のアクティブ・ハムバッカーで、EMGの取扱資料では9V駆動、セットの消費電流160µA、出力インピーダンス10kΩです。
参考 James Hetfield Signature Snakebyte and EMG JH SetMetallica公式 参考 James Hetfield JH Set Installation InformationEMG Pickups公式資料ピックアップ名だけで同じ音になるわけではありません。弦高、ピックアップ高、弦の太さ、ピッキング位置、アンプの入力でも低音の締まりとアタックは変わります。まずブリッジ側を使い、低音弦が強く鳴りすぎない高さから合わせます。
アンプとラック機材
Mesa/Boogie Mark IIC+、Triaxis、2:90
Mark IIC+は初期Metallicaの音を語るうえで重要ですが、アルバムごとの録音は複数アンプ、キャビネット、マイク、重ね録りを含みます。「Mark IIC+を買えばアルバムと同じ音」とは考えない方が現実的です。
2011年のライブリグでは、Triaxis、2:90、Mesa 4×12のほか、次の機器が確認できます。
- Mesa/Boogie Amp Switcher
- Digital Music Corp. GCX Expander
- DBX Quad Gate
- TC Electronic G-Major
GCXは音を歪ませるペダルではなく、複数のアンプやエフェクトを切り替えるための機器です。旧記事で挙げていたVoodoo Lab GCX Guitar Audio Switcherと名前が近いものの、Mesa公式記事の表記はDigital Music Corp. GCX Expanderです。同一製品として断定しません。
Fractal Axe-Fx
『72 Seasons』の制作担当者は、ジェームズのギターをDI信号とFractal Axe-Fxからの2種類のアンプ音で録音したと説明しています。これは「ライブだけでデジタル機材を使う」のではなく、制作でもモデラーが使われたことを示します。
参考 Jason Gossman: The 72 Seasons InterviewMetallica公式一方、Axe-Fx内の正確なプリセット、IR、EQ値は曲や時期で変わり、公式に全設定が公開されているわけではありません。ネット上の「Hetfield preset」は再現者が作ったものも多いため、本人用データと混同しないようにします。
エフェクター20機種説の確度
旧記事では20機種を個別の使用機材として掲載していました。しかし、同じ系統の新旧モデルが重複し、Metallicaの別メンバーやベース用機材と混ざる可能性がある項目も含まれていました。情報自体は消さず、現在確認できる確度で整理します。
| 旧記事にあった機材 | 現在の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| ProCo RAT、Ibanez TS9 | 初期機材として語られる通説 | 公式・本人資料で使用時期と接続を再確認できていない |
| Line 6 DM4、DL4 | ライブ機材として挙げられる情報 | James個人のどの時期・用途か、今回の公式資料では確定できない |
| MXR Phase 100/Script Logo | 同一系統を2機種として重複掲載していた | 個体・年代を含むJames本人の使用証拠は未確認 |
| Klon Centaur/Gold Horsie | 同一モデル系統を2件掲載していた | 使用時期と用途を公式確認できていない |
| BOSS NS-2、TU-3、CS-1 | ノイズ管理、チューニング、クリーン補助として挙げられる情報 | 旧記事の商品リンクはCS-1ではなく現行CS-3だった |
| DigiTech Whammy 5/WH-1 | 同じWhammy系を2件掲載していた | Metallicaの曲で使われたこととJames本人の使用は別 |
| Cry Baby、Heil Talk Box | Metallicaのリード表現と混ざりやすい | Kirk Hammett側の機材・演奏と区別が必要 |
| EHX Bass Micro Synth/Bass Mono Synth | ベース用機材を2件掲載していた | Rob TrujilloやCliff Burtonの音とJamesのギターを混同しない |
| Lovetone Brown Source | 使用説 | 公式・本人・技術者資料で確認できていない |
| Fractal AX8 | 旧記事ではAX8と現行FM9商品を混在 | 確認できるのはMetallicaのAxe-Fx系使用。AX8/FM9と断定しない |
| GCX Guitar Audio Switcher | ラック切替機器として近い情報 | Mesa公式のDigital Music Corp. GCX Expanderと商品名を混同しない |
「確認できないから使っていない」とも断定できません。初期のRATやTS9などは長く語られているため、通説として残します。ただし、再現機材を買う理由にする場合は、公式資料で確定した機材と同じ扱いにしない方が安全です。
初期RAT説から音を試す場合は、ヴィンテージRATと現行RAT2の違いをこちらで確認できます。
TS9については、世代と回路の違いを先に把握しておくと、通説だけでヴィンテージを選ばずに済みます。
Ibanez(アイバニーズ) Tubescreamer TS9
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手持ちの機材で近づける設定
以下は本人の公開プリセットではなく、一般的なハイゲインアンプで方向を近づける出発点です。数字より、パームミュートの低音が長く残らず、コードの各音が聞こえる位置を優先します。
| 項目 | 出発点 | 調整方法 |
|---|---|---|
| GAIN | 4〜6/10 | 音の粒が潰れたら下げる |
| BASS | 4〜5/10 | 低音弦が遅れて聞こえたら下げる |
| MIDDLE | 3〜5/10 | バンドで消える場合は上げる |
| TREBLE | 5〜6/10 | ピック音が痛い場合は下げる |
| PRESENCE | 3〜5/10 | 音量を上げた状態で最終調整 |
| ノイズゲート | 弾いていない瞬間だけ閉じる値 | 音の伸びが切れたら弱める |
歪みペダルを使う場合は、DIST/DRIVEを低く、LEVELを高めにしてアンプ前段を押す方法から試します。RATをメイン歪みにする場合も、FILTERとアンプ側の高音を同時に上げすぎないようにします。
クリーンは、2017年のFractal公式フォーラムに掲載されたギターテック取材でJazz 120系アンプモデルの使用が報告されています。コーラスを深くかける前に、低音を整理したクリーンとピッキングの強弱を作る方が近道です。
参考 Metallica backstage part 2|Jamesのライブ用アンプモデルFractal Audio公式フォーラムJC-120で歪みとクリーンを作り分ける方法はこちらで解説しています。
まとめ
ジェームズ・ヘットフィールドの音作りは、エフェクター20台より、ハムバッカー搭載ギター、Mesa/Fractal系のタイトなハイゲイン、ノイズ管理、正確な右手が中心です。ESP Snakebyte、EMG JH Set、Mesa Mark IIC+、Triaxis、Fractal Axe-Fxは公式・本人・関係者資料から追いやすい機材です。
RAT、TS9、Klon、Whammyなどの説は削除せず残しましたが、年代と本人使用を確認できない項目は通説として分けました。Metallicaは活動期間が長く、James、Kirk、Robの機材も混ざりやすいため、「バンドで使われた」と「Jamesが使った」を分けて読むことが大切です。
FAQ
- ジェームズ・ヘットフィールドの歪みの中心はエフェクターですか?
- 確認しやすい年代では、Mesa/Boogieのプリアンプ/パワーアンプやFractal Axe-Fxが中心です。RATやTS9の使用説はありますが、全時期のメイン歪みがペダルだったわけではありません。
- メタリカの音作りに必要なエフェクターは何ですか?
- 必須に近いのはノイズを管理するゲートです。歪みはアンプやモデラーで作り、必要なら低ゲインのオーバードライブで低音を整理します。まずギター、アンプ、右手のミュートを整えてください。
- ジェームズはRATやTS9を使っていますか?
- 初期機材として広く語られる説はありますが、今回確認した公式・本人資料では使用時期、接続、設定まで確定できませんでした。使っていないと断定せず、通説として確度を分けています。
- ジェームズ・ヘットフィールドの代表的なギターは何ですか?
- ESP Snakebyteが代表的です。ほかに初期ESP MX、Iron Cross、Truckster、Vulture、Electra OGV、Gibson Explorer系、Ken Lawrence製カスタムなどが本人・公式資料で紹介されています。



