グレーのROSS Compressorだけでも十分うれしいのに、オレンジのROSS Phaserまで並ぶと、かなり気分がいいです。今回紹介するのは、1979年製と思われる所有個体です。
音はMXR Phase 90より少し滑らかに感じます。フェイザーらしい「シュワーッ」という動きは濃いのに、音の角が急に飛び出しません。先日紹介した黄色いGuyatone PS-101 Rolly Phase Sonixにも、少し似た丸さがあります。
RATEとRECYCLEの2ノブだけなので、使い方も難しくありません。RATEで揺れる速さを決め、RECYCLEでシュワシュワした音をどれくらい強く戻すかを決めます。

オレンジの塗装、大きなROSSロゴ、RATEとRECYCLEの2ノブ。傷も含めて格好いい所有個体です。

側面まで大きく入ったROSSロゴ。角の塗装が落ち、下の金属が見えているところも気に入っています。
1979年製と思われる根拠
いちばん分かりやすい手掛かりは、ポットに刻まれた「1377904」です。
- 137:CTS製
- 79:1979年
- 04:第4週
これはエフェクターが完成した日ではなく、ポットが作られた時期です。ポットが交換されていなければ、このROSS Phaserは1979年第4週より後に組み立てられたことになります。

ポットの刻印は1377904。CTSが1979年第4週に作った部品と読めます。
底面ラベルの基板番号は「P/N 405-0007-22」です。海外のROSS Phaser変遷資料では、RECYCLE表記、米国製、16ピンのアレイIC、P/N 405-0007-22を持つ仕様に1979年の確認例があります。手元の個体は、この特徴と一致します。
“Orange | USA | Recycle Control”
日本語にすると「オレンジ筐体、米国製、RECYCLEコントロール」です。
参考 ROSS Phaser Chronology Guide|筐体・回路・基板番号の変遷(英語)Home-Wrecker以上から、この個体は1979年製とみています。ただしROSSの製造台帳で照合したわけではないため、「1979年製と思われる」という書き方が正確です。

底面にはKEAS Electronicsの仕様ラベルと神田商会のシールが残っています。P/Nは405-0007-22です。
RC4558P MALAYSIAが4個入っている
裏蓋を開けて驚いたのが、8ピンのRC4558Pが4個並んでいることです。刻印には「MALAYSIA」とあります。Raytheon製ではなく、Texas InstrumentsのRC4558P、通称マレーシアンチップとして知られる部品です。
RC4558Pは、1個の中に増幅回路が2組入ったデュアル・オペアンプです。このROSS Phaserでは、ギター信号を受ける部分、位相をずらす部分、揺れを作る部分、最後に音をまとめる部分で複数の増幅回路を使います。

8ピンICの表面にRC4558PとMALAYSIAの刻印が見えます。右下の大きな16ピンICとは別の部品です。
同じRC4558P MALAYSIAは、ヴィンテージIbanez TS808の一部にも使われています。Analog Manが確認した初期TS808の一覧にも、1980年製個体で複数の搭載例があります。私が所有するヴィンテージTS808にも同じ刻印のRC4558Pが入っています。
“RC4558P Malaysia 1980”
日本語にすると「1980年製のRC4558Pマレーシア」です。
参考 Ibanez Tube Screamer History|初期TS808のRC4558P MALAYSIA搭載例(英語)Analog Man4個で約4万円、という小さなロマン
ヴィンテージのRC4558P MALAYSIAは、単体でも高く売られることがあります。2026年9月2日にYahoo!オークションの終了結果を確認すると、未使用1個が8,400円、マレーシア製8個セットが14,500円で落札された例がありました。状態、刻印、製造時期、出品者、動作確認の有無で価格差は大きくなります。
参考 RC4558の落札結果|確認日2026年9月2日Yahoo!オークション1個を約1万円として単純に掛ければ、4個で約4万円です。私は、この4個だけでも約4万円分の価値があると思っています。これは所有者としての価値の感じ方であり、このROSS Phaserの査定額が必ず4万円上がる、という意味ではありません。それでも、高く探される古いマレーシアンチップが4個そろって基板に残っていると思うと、裏蓋を開けるたびにうれしくなります。
4558だけで、この滑らかな音になるわけではない
RC4558Pが4個も見えると、音のすべてをこのICで説明したくなります。しかし、フェイザーの音はICの型番だけでは決まりません。
フェイザーは、元の音へ少し位相をずらした音を混ぜます。すると、ある音域は足し合わされ、別の音域は打ち消されます。その打ち消される場所をゆっくり動かすと、シュワーッと音域が回って聞こえます。
1979年仕様とされるROSS Phaserは、16ピンのアレイICを使うJFET式です。RC4558P、JFETアレイ、コンデンサーや抵抗、内部トリマー、RECYCLEの戻し量が一緒に働いて音が決まります。

基板にはRC4558Pが4個、中央下に16ピンIC、左右に内部調整用の青いトリマーが並びます。
Analog ManのTS808比較でも、JRC4558D、RC4558P、TL4558Pの音の差は小さいと説明されています。ROSS Phaserでも「マレーシアンチップだから必ず滑らか」とは断定できません。私が弾いて感じた滑らかさは、この個体の回路全体と調整を含めた音です。
RATEとRECYCLEの使い方
- RATE:揺れが一往復する速さ
- RECYCLE:位相をずらした音の一部を回路へ戻し、フェイザーの山と谷を強くする量
RECYCLEは、山びこをもう一度入力へ戻すつまみ、と考えると分かりやすいです。上げるほど「シュワッ」という部分が目立ちます。上げすぎて音が鼻づまりのように聞こえたら、左へ戻します。
| 使い方 | RATE | RECYCLE | 聞くポイント |
|---|---|---|---|
| コードの後ろで揺らす | 9〜10時 | 9〜10時 | コードの輪郭を残し、後ろだけがゆっくり動く位置 |
| 単音リフ | 11〜12時 | 11〜1時 | ピッキングの後ろにシュワッとした動きが付く位置 |
| 深いヴィンテージ・フェイズ | 9〜11時 | 1〜3時 | 音を伸ばしたときに大きな谷が通過する位置 |
| 回転スピーカー風 | 2時より上 | 10〜12時 | 揺れが細かくなっても音量が不自然に跳ねない位置 |
これは手元の個体で使いやすかった出発点です。最初にRECYCLEを9時へ置き、RATEで速さを決めます。その後、揺れをもっと濃くしたいときだけRECYCLEを上げると、迷いません。
Phase 90より滑らかで、Guyatone PS-101にも少し似ている
手元のヴィンテージMXR Phase 90と比べると、ROSS Phaserは揺れの角が少し丸く聞こえます。Phase 90は1ノブで、踏んだ瞬間にフェイザーらしい動きが前へ出ます。ROSSはRECYCLEを下げると、効果音の主張を引っ込めたまま使えます。
Guyatone PS-101とは回路も部品も同じではありません。それでも、どちらも古いJFET式フェイザーらしい丸さがあり、RECYCLEやDEPTHを抑えたときの音には近い雰囲気を感じます。
Phase 90の勢いが好きならMXR、揺れの濃さをもう一段細かく決めたいならROSS、浅いところまでDEPTHで調整したいならGuyatone PS-101、という選び分けが分かりやすいです。
1979 ROSS Phaserの音を動画で確認
同じ1979 ROSS Phaserの演奏動画です。手元の個体そのものの録音ではありませんが、RATEを変えたときの速さと、RECYCLEを上げたときの濃さを確認できます。
ヴィンテージ個体を使う前の注意
この年代のROSSは、現行ペダルと同じ形の電源端子ではありません。手元の個体にも3.5mmのPWR端子があります。変換プラグの形だけが合っても、極性が逆なら部品を壊します。
RECYCLEを上げたときだけ異常に音が割れる、RATEを上げると周期的なノイズが出る場合は、オペアンプ交換だけで直るとは限りません。電源、電解コンデンサー、JFETアレイ、内部トリマー、スイッチ、ジャックも確認が必要です。
ROSS Compressorと並べると、さらにうれしい

グレーのROSS Compressorと、オレンジのROSS Phaser。どちらも1979年製と思われる所有個体です。
グレーのCompressorはRCA CA3080E、オレンジのPhaserはRC4558P MALAYSIAが4個。同じROSSの大きな筐体でも、中身も役割もまったく違います。
並べて満足するだけでなく、Compressorを薄くかけ、その後ろへPhaserをつなぐと、音量を整えたコードの後ろをフェイザーがゆっくり動きます。どちらも常に強くかけず、SUSTAINとRECYCLEを低めにすると使いやすい組み合わせです。
まとめ
このROSS Phaserは、CTSポットの1377904、RECYCLE表記、P/N 405-0007-22、内部回路の特徴から、1979年製と思われる個体です。
音はPhase 90より少し滑らかに感じ、Guyatone PS-101にも通じる丸さがあります。RATEで速さ、RECYCLEで揺れの濃さを決められるため、深いヴィンテージ・フェイズだけでなく、コードの後ろで静かに動く音も作れます。
そして、いちばん中を見せたくなるのは4個のRC4558P MALAYSIAです。初期TS808の一部で人気のあるマレーシアンチップが、フェイザーの基板に4個並んでいます。部品相場を単純に掛ければ約4万円、というのも楽しい話ですが、外して売るより、このままROSS Phaserの音を作っている姿がいちばん格好いいです。
ヴィンテージ・フェイザーを機種別に比べたい場合は、定番から多機能モデルまでまとめた記事も参考にしてください。
FAQ
- このROSS Phaserは1979年製ですか?
- ポットは1979年第4週に作られています。RECYCLE表記、P/N 405-0007-22、内部回路も1979年の確認例と一致するため、1979年製とみています。ただし製造台帳で照合した確定年ではありません。
- ROSS PhaserのRATEとRECYCLEは何を変えますか?
- RATEは揺れの速さです。RECYCLEは位相をずらした音の一部を回路へ戻し、フェイザーの山と谷を強くします。最初はRECYCLEを9時へ置き、RATEで速さを決めると調整しやすくなります。
- RC4558P MALAYSIAはRaytheon製ですか?
- この個体のRC4558P MALAYSIAは、RaytheonではなくTexas Instrumentsのデュアル・オペアンプです。初期Ibanez TS808の一部にも搭載例があります。
- RC4558P MALAYSIAが4個なら4万円の価値がありますか?
- 1個約1万円の出品・落札例だけを単純に掛ければ約4万円です。ただし部品価格は状態と真贋で変わり、ペダル本体の査定額とは別です。基板から外すと損傷やオリジナル性低下の危険があります。
- ROSS PhaserはMXR Phase 90と同じ音ですか?
- 同じ音ではありません。手元のROSSはPhase 90より揺れが滑らかに聞こえ、RECYCLEで効果の濃さを調整できます。これは所有個体を同じ環境で弾いた主観的な比較です。

