TS9の改造は、低音を増やす、歪む量を変える、歪みの質感を変えるという目的で分けると、交換する部品を選びやすくなります。部品を一度に替えると、どの変更が好みに合ったのか分かりません。まず変えたい点を一つ決めて、音量をそろえて比べるのがおすすめです。
ここでは部品交換の考え方を4つ、Analogman/RE-Jの改造個体、自分のTS9で試した改造を合わせて6つ紹介します。私は、改造に失敗して壊していたTS9を修理し、SNSで見かけた改造を試しました。アンプを強く歪ませなくても使いやすくなった感触があり、弾いて面白い改造だと感じました。
TS9の改造6つと、変えたい音の選び方
| 目的・改造例 | 見る部品や箇所 | 比べるところ |
|---|---|---|
| 1. 低音を増やす | 歪む音域を決めるコンデンサ | 低い弦の厚みと、和音の聞き取りやすさ |
| 2. DRIVEの調整幅を変える | 歪み回路の抵抗 | DRIVE最小と最大の両方 |
| 3. 歪みの質感を変える | クリッピングダイオード | 音のつぶれ方と出力音量 |
| 4. TS808寄りの出力部にする | 出力側の抵抗2本 | 同じ音量、同じ接続先での差 |
| 5. Analogman/RE-Jの改造個体 | 実機で見たコンデンサと抵抗 | TS9らしさを残した音域の違い |
| 6. 自分で試した改造 | 掲載した交換位置図と修理個体 | クリーン寄りのアンプでの弾きやすさ |
元のTS9は、低音を整理して中音域を聞こえやすくするオーバードライブです。低音を増やせば必ずバンドで聞こえやすくなるわけではありません。いまの音で物足りないのが低音なのか、歪みなのかを分けて考えます。
部品の容量や抵抗値を大きく変えず、種類やメーカーを選び直した私のTS9は別の記事で紹介しています。今回の「音の変わる範囲を変える改造」と比べたい方はこちらもどうぞ。
作業前に、基板と交換する部品を照合する
TS9という型番だけで、写真と同じ場所の部品を外さないでください。製造時期や修理歴で部品・配置が違うことがあります。下のA〜Gと808-1/808-2は、この位置図で使う目印です。すべてのTS9に共通する基板の部品番号ではありません。
位置図には、別の記事でも部品説明に使っているTS808の基板写真を用いています。この図は、TS系の部品の並びを見るための参考です。以下の4つの考え方を自分のTS9へ適用するには、その個体の回路図と配線から交換先を特定する必要があります。写真の場所をそのまま写す施工手順ではありません。

A〜Gはこの記事の位置図の目印です。作業するTS9では、元の部品値と回路上の接続も照合します。
kΩは抵抗値、μFはコンデンサの容量を表す単位です。
| 図の目印 | 説明の基準にする値 | 見分けるときの注意 |
|---|---|---|
| A | 4.7kΩの抵抗 | 抵抗の色だけでなく測定と接続先も確認 |
| B | 0.047μFのコンデンサ | 「473」は0.047μFの表記 |
| C | 51kΩの抵抗 | 同じような外観の抵抗と取り違えない |
| F | 1μFの両極性電解コンデンサ | 極性付きの電解コンデンサと区別 |
| 1G・2G | 0.22μFのコンデンサ | 2か所は役割が違うため、一組として交換しない |

D・Eは歪みを作るダイオード、808-1/808-2は出力側の抵抗を示しています。
1. 低音を増やすコンデンサ交換
TS9の低い音が細く感じるときは、歪み回路に入る低音の量を変える方法があります。基準の4.7kΩと組み合わされた0.047μFを大きくすると、より低い音まで強く増幅する方向になります。低音の量だけでなく、低音の歪み方も変わるのがポイントです。
| 容量の例 | 試す目的 | 確認すること |
|---|---|---|
| 0.047μF → 0.1μF | 低い弦の厚みを増やしたい | 和音の低音が膨らみすぎないか |
| 0.22μF | 変化を大きくして比べたい | アンプも歪ませたときに低音が混ざりすぎないか |
| 0.47μF、0.22μFを2個並列にした0.44μF | さらに低い音まで含めて比べる例 | ギター単体の厚みとバンドでの聞こえ方を分けて判断 |
| 0.01μF | 低い音を減らす方向の比較 | 容量を増やす変更と取り違えない |
bass notes are clipped least.
日本語訳:低音は、最も歪みが少なくなる部分です。R.G. Keenは標準的なTS回路について、このように説明しています。
この容量と4.7kΩの抵抗は組み合わせで働きます。抵抗まで一緒に替えると結果が変わるため、まず片方だけで比べます。回路の考え方は、R.G. KeenによるTube Screamerの技術解説(英語)が参考になります。
容量の読み方として、0.047μFと0.1μFを並列にすると合計は0.147μFです。0.15μFに近い値ですが同じ容量ではありません。これは容量計算の例で、特定の交換先を指定するものではありません。Fや1G・2Gを替える話も、歪み回路の0.047μFを替える話と区別します。
2. DRIVEの調整幅を変える抵抗交換
「DRIVEを上げても足りない」と「DRIVEを下げても歪みすぎる」は別の悩みです。歪み回路の抵抗を変えるときも、この2つを分けて考えると選びやすくなります。
- 4.7kΩの抵抗を3.3kΩ、2.2kΩ、1kΩへ小さくすると、歪み回路の増幅量を増やす方向です。組み合わされた0.047μFの容量を変えずにこの抵抗を小さくすると、強く増幅する音域の境目も高い方へ動きます。低音も同じ割合で増えるわけではありません。
- 51kΩの抵抗を10kΩへ小さくすると、DRIVEを絞ったときの増幅量を下げる方向です。DRIVEを上げ切った音だけで判断しないでください。
抵抗を小さくすれば「高音がきれいになる」という一つの結果に決まるわけではありません。同じ抵抗値でも、ギターの出力やアンプの歪み方で使いやすい範囲が変わります。DRIVEの最小・中央・最大を、それぞれ同じ出力音量で比べます。
ICやコンデンサの材質を替える場合
TS9では、音を増幅する回路に「オペアンプ」という種類のICを使います。JRC4558DからOPA2134などへの交換もありますが、高価なICへの交換と、好みの歪みになることは別です。8本足でも種類や端子配列が同じとは限りません。電源の条件、取り付ける向き、実装できる外形も確認します。
1μFの両極性電解を同容量のフィルムコンデンサにする変更も、容量を増やす変更とは分けます。材質を替えただけで「低音が歪まなくなる」とは言えません。0.22μFの箇所を0.15μF・0.1μF・0.47μF・1μFへ変える場合も、交換先の役割を回路図で確認してから試します。
Number of channels 2
日本語訳:内部に2回路を備えます。これはOPA2134の仕様の一つです。交換時は、回路数だけでなく端子配列や電源条件も確認します。
OPA2134の仕様とデータシート(Texas Instruments公式・英語)
3. ダイオードで歪みの質感を変える
増幅した音の波形を抑えて歪みを作る部品が、クリッピングダイオードです。種類・数・向きの組み合わせを変えると、音のつぶれ方と音量が変わります。
元の2本を逆向きに配置した組み合わせに対して、片側へもう1本を直列に足すと、波形の上下で抑え方が異なります。「非対称クリッピング」はこの状態を指す言葉です。完成した音の好みは、部品名だけでは決まりません。
交換候補には1N4001、1N4148、LED、1N34Aなどがあります。1N34Aはゲルマニウム、1N4001や1N4148はシリコンを使ったダイオードです。部品を複数直列にする例もありますが、名前のリストだけでは配線を決められません。実際の施工では、波形の片側ごとの組み合わせと向きを回路図で確認します。
ほかにショットキーダイオードを試す考え方もあります。ただし、3mmの赤いLEDという外観だけで歪み方は決まりません。外した部品へ戻せるようにし、変更後はLEVELを合わせ直します。
ダイオード追加と向きの考え方は、改造を行う筆者自身が説明したPremier GuitarのTube Screamer改造解説(英語)でも図入りで確認できます。
4. 出力部の抵抗2本をTS808寄りに変える
よく知られる「808化」は、歪みを増やす改造とは別に、音を後ろの機器へ渡す出力部を変える方法です。標準的なTS9の出力部では、470Ωを100Ωへ、100kΩを10kΩへ変更する組み合わせが知られています。
抵抗2本を替えれば、すべてのTS9がヴィンテージTS808と同じ音になるわけではありません。接続する機器の入力条件や、もともとの部品・個体でも差が変わります。TS808を使う場合は、すでに該当する値になっていないか先に確認します。
swapping of two resistor values in the output section.
日本語訳:出力部にある2本の抵抗の値を変更すること。Premier Guitarの解説(英語)が扱う808化も、この出力部の変更です。
TS9とTS808の違いや、モデルごとの位置付けを知ってから決めたい方は、こちらの比較も参考になります。
5. Analogman/RE-Jの改造個体で見た変更
こちらは、修理で預かったAnalogman Re-J Range Expander Mod TS9の交換箇所を示した写真です。自分で試す改造案とは分け、実際の一台に使われていた部品として紹介します。

修理で預かった個体のコンデンサとオペアンプの交換箇所を、丸印と色で示しています。

同じ個体の抵抗交換箇所です。同じラベルの改造品すべてに、同じ変更があるという意味ではありません。
私が弾いた印象では、TS9の中音域はしっかり残り、低音が削られすぎる感じが少なく、高音も少しすっきりしていました。大きく別の音へ変えるより、TS9が好きな人に面白い違いです。内部と音の話は、修理個体のレビューにまとめています。
The silver option has less of a mid range hump than a normal tube screamer.
日本語訳:Silver仕様は、通常のTube Screamerより中音域の盛り上がりが少なくなっています。
Analog Man公式はSilver Modについて、通常のTSより中音域の山を抑え、低音を改善する方向と説明しています。ただしRange ExpanderとSilverは、名前だけで同じ施工内容とは決められません。Analog ManのSilver Mod解説(英語)と、RE-J本人の訳注を含むインタビュー翻訳も参考になります。
6. 自分のTS9で試した改造と弾いた感想
SNSの自作エフェクターのコミュニティで「Tamura mod」として紹介されていた変更を、自分のTS9で試しました。ここで扱うのは私が改造した個体です。Godlykeから販売されるTAMURA-MOD TS9の紹介ではありません。
以下は、当時使った変更箇所の図です。82kΩ、180Ω、4.7μFを2か所、39kΩ、2.7kΩという値が書き込まれています。私が試した内容を振り返るために載せており、別のTS9へそのまま施工できる図面ではありません。施工を依頼する場合も、業者に実機の回路と元の部品を確認してもらいます。

82kΩの変更箇所を書き込んだ、当時の図です。

180Ωの変更箇所を書き込んだ図です。

2か所のコンデンサに4.7μFと書き込んだ図です。

39kΩの変更箇所を書き込んだ図です。

2.7kΩの変更箇所を書き込んだ図です。
2024年9月13日、以前の改造で壊してしまったTS9を修理して、この変更を試しました。エフェクトを切った音から、各弦が聞き取りやすく、きらびやかになったと感じました。TS9の少しもっさりした音が好きな人もいると思いますが、私はこの方向が好みです。

修理と改造を進めていた私のTS9です。
エフェクトを入れると、アンプをある程度歪ませないと使いにくいと感じていた点が和らぎ、単体でも程よく歪むように感じました。TONEを極端に上げなくてもバランスが取りやすく、低音の輪郭も分かりやすいです。これは私がこの個体で弾いた感想で、交換値だけから同じ結果を保証するものではありません。

無改造のTS9と、今回の改造を試したTS9を並べました。
TS9の設定をそろえて、改造前後を比べる
Ibanez TS9:軽い歪みを比べる設定
Ibanez(アイバニーズ) Tubescreamer TS9
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上の商品と動画は通常のTS9です。掲載した改造個体とは分けて、元の機種を選ぶときの参考にしてください。図はメーカー指定ではなく、音を比べるための調整例です。
TS9:軽い歪みで比べる
- 1 DRIVE9時
- 2 LEVEL12時
- 3 TONE12時
クリーン寄りのアンプで、LEVELはON/OFFの音量が近くなるように調整します。
まず弱く弾いた音と強く弾いた音で、歪みの差を聴いてください。低音を増やす変更をした場合は、低い弦を含む和音も比べ、音が混ざりすぎないかを確かめます。
Ibanez TS9:歪ませたアンプの前で比べる設定
TS9:アンプの歪みと合わせる
- 1 DRIVE7時
- 2 LEVEL2時
- 3 TONE11時
軽く歪ませたアンプの前へ接続。LEVELはアンプの歪みと音量を聴きながら下げて調整します。
こちらはTS9自体の歪みを控え、アンプへ送る音を大きくする例です。改造で出力が変わった場合、LEVELを同じ位置にするだけでは公平な比較になりません。音量が大きくなったことと、音色が好みに近づいたことを分けて聴きます。
Use only DC 9V (Center-negative)
日本語訳:直流9V・センターマイナスのみを使用してください。
Ibanez公式TS9仕様(英語)では、電源は9V・センターマイナスと案内されています。ICを交換しただけでエフェクター全体が高電圧対応になるわけではありません。
改造で使っている道具と、はんだ付けの注意
goot TQ-95:10年以上使っているはんだごて
私が10年以上愛用しているはんだごてです。クイックスイッチを押す間は加熱が強くなるので、熱が伝わりにくい接合部で使い分けています。強く押し当てたり、加熱を続けたりすることとは別です。
goot公式の注意では、スイッチを電源投入時は30秒以上、使用中は10秒以上押し続けないよう指定しています。基板を長く加熱するためのボタンとして使わないでください。
HAKKO 633-01:こてを置く台
熱いこてを安全に戻すための台です。使用するこてが安定して収まることを確かめ、机や床へ直接置かないようにします。
Kester 44:楽器配線でも使われるはんだ
ギター配線でもよく使われるはんだです。作業中は換気し、飲食を避け、終わったら手を洗います。部品を切った小さな金属片も回収します。
goot CP-3015:部品を外すはんだ吸取線
CP-3015は幅約3.0mm・長さ約1.5mの吸取線です。私は5秒ほど当てても吸い取れなければ、一度離して冷まし、こてを当てる位置を変えています。無理に引っ張ったり、熱をかけ続けたりすると、銅の配線が基板から剥がれることがあります。
Approx. 3.0mm
日本語訳:幅は約3.0mm。CP-3015のメーカー仕様です。
交換したあとに確認する順番
改造せずに好みのTS系を選ぶ方法もあります。音域や使い方の違いを比べたい場合は、こちらで本家モデルと派生機種をまとめています。
TS9改造のよくある質問
- TS9の改造は初心者でもできますか?
- 回路図と実機の配線を照合し、部品の向きやはんだ付けを確認できることが必要です。経験がない場合は、無理に基板の部品を外さず、変えたい音と資料をリペア店へ伝えて相談してください。
- 改造すると元の音へ戻せなくなりますか?
- 基板や配線が無事なら、保管した元部品へ戻して比較できます。ただし配線の切断や基板の剥がれがあると、部品を戻すだけでは直りません。交換前の値・向き・接続を撮影しておきます。
- TS9の改造で、最初にどの部品を選べばいいですか?
- 低音を増やしたいなら歪む音域を決めるコンデンサ、DRIVEの調整幅を変えたいなら抵抗、歪みのつぶれ方を変えたいならダイオードを検討します。一度に複数の変更をせず、出力音量をそろえて比べます。
- オペアンプを交換すれば18Vで使えますか?
- オペアンプを交換しただけで、TS9全体が18V対応になるわけではありません。電源に関わるほかの部品もあるため、通常のTS9はメーカー指定の9V・センターマイナスで使ってください。
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