ついに、グレー筐体のROSS Compressorを手に入れました。ポットの刻印から、1979年製とみられる個体です。内部にはRCA CA3080Eと松下2SC1849が使われています。
手に入れた時点では電源部の保護ダイオードが壊れており、音は出ませんでした。ダイオードを交換して鳴らしてみると、これがとても良い音でした。
ROSS系のクローンはこれまで10台以上作りました。それでもオリジナルを弾くと、「ROSS Compressorはこのバランスが魅力なのか」と納得します。弱い音を持ち上げても、ピッキングの勢いが消えすぎません。SUSTAINを低めにすれば、ずっとONにしておきたくなる音です。

グレーの塗装と大きなROSSロゴが気に入っています。2ノブはSUSTAINとLEVELです。
本当に1979年製なのか
手掛かりは、音量を調整する部品であるポットの刻印「1377917」です。137はメーカーのCTS、79は1979年、17は第17週を表します。いわば部品の誕生日です。
このポットが後から交換されたものでなければ、ペダルが完成したのは1979年第17週より後です。筐体のLEVEL表記や内部部品も同時期の個体と合うため、1979年製とみています。

ポットの刻印は1377917。1979年第17週に作られた部品です。
最初期のグレー筐体はSUSTAIN/OUTPUT表記です。その後、OUTPUTがLEVELへ変わります。手元の個体はLEVEL表記で、同じ1377917のポット、RCA CA3080E、2SC1849を備えた1979年の個体も見つかっています。
参考 1979 ROSS Compressor|LEVEL表記・ポットコード・内部部品Vintage-Style by MG 参考 ROSS 1979 Compressor|OUTPUTとLEVEL表記の違いイシバシ楽器 GuitarQuest
側面まで回り込む大きなROSSロゴ。傷も含めてヴィンテージらしい表情です。
裏返すと、KEAS Electronicsの仕様ラベルと神田商会のシールが残っています。日本へ正規に入ってきた個体だったことが分かる、うれしい部分です。

傷んではいますが、仕様ラベルと神田商会のシールが残っています。
所有個体の仕様
裏蓋には、今のペダルではあまり見かけないほど細かな仕様が書かれています。読める部分を表にしました。
| 項目 | 所有個体の底面表記 |
|---|---|
| 入力インピーダンス | 500kΩ |
| 接続する負荷 | 50kΩ以上 |
| 最大入力 | 400mV(-8dBV) |
| 出力レベル | 0〜200mVで調整可能 |
| リミッティング・スレッショルド | 4〜80mVで調整可能 |
| コンプレッション | 15〜40dBで調整可能 |
| アタック | 4ms |
| ディケイ | 1.2秒 |
| 入力換算雑音 | -98dBV |
| 電源 | 9V DC、1.5mA |
「50kΩ」は本体の出力インピーダンスではありません。次につなぐ機材は50kΩ以上が想定されている、という意味です。
RCA CA3080Eと松下2SC1849
コンプレッサーは、大きすぎる音を少し抑え、小さな音を持ち上げて、演奏の音量差を整えるペダルです。その音量調整を担当する中心部品がOTAです。
この個体にはRCA製のCA3080Eが入っています。CA3080EだけでROSSの音になるわけではありません。どれくらい強く音を抑えるか、どれくらい早く元へ戻すかは、周りの部品や内部調整も含めて決まります。

小さな8ピンの部品がRCA CA3080E。右側は効き方を整える内部トリマーです。
1979年のROSS Compressorには、National Semiconductor製LM3080Nが入った個体もあります。池部楽器店が紹介したLEVEL表記の個体はLM3080Nです。1979年にはCA3080EとLM3080Nの両方が見つかるため、「後期型は必ずLM3080N」とまでは言えません。
参考 ROSS Compressor Gray Case ’79|LM3080N搭載個体池部楽器店トランジスターは、読めるものがすべて松下2SC1849でした。本体には型番の頭を省いた「C1849」と印字されています。

黒い半円形の部品が松下2SC1849です。表面にはC1849と印字されています。
クローンを作る場合は2N3904や2N5088も使えますが、このオリジナルに入っているのは2SC1849です。

40年以上前の基板です。大きなポットと余裕のある部品配置に時代を感じます。
いちばん自慢したいのは音
このペダルは中身も面白いのですが、いちばん自慢したいのは音です。修理後に初めて鳴らしたとき、バイパスからONへ切り替えても、急に別のギターへ持ち替えたような不自然さがありませんでした。
これまで10台以上作ったROSS系クローンも十分良い音でした。それでも、このオリジナルは効き方のつながりがきれいです。弱く弾いた音は聞こえやすくなり、強く弾いた瞬間の勢いは残ります。クリーンではコードがまとまり、軽い歪みの前では音を少し太くしながら伸ばせます。
ヴィンテージのROSSとDyna Compについて、R.G. Keenの回路解説には次の記述があります。
英語PDFの原文:
> “The stomp switch on the vintage units is a DPDT switch, but not wired for true bypass.”
日本語訳:
> 「ヴィンテージ個体のフットスイッチはDPDTですが、トゥルーバイパス配線ではありません」
参考 D&R Comp|ヴィンテージROSS/Dyna Compの回路とバイパス(英語PDF)R.G. Keen回路解説・英語資料この個体はトゥルーバイパスではありません。そこも含めて、OFFとONの音量や音域が自然につながっているように感じます。バイパス回路だけを入れ替えて比べたわけではありませんが、このまとまり方はクローンではなかなか得られなかった部分です。
ヴィンテージのグレーROSSとDyna Compを同じ演奏で比べた動画です。
SUSTAINとLEVELの使い方
- SUSTAIN:右へ回すほど、強い音と弱い音の差が小さくなり、音の伸びが増える
- LEVEL:エフェクトON時の音量を決める
最初はSUSTAINを9時、LEVELをOFFのときと同じ音量にします。SUSTAINは「音の粒をどれくらいそろえるか」、LEVELは「ペダルを通した後の音量」と考えると簡単です。
| 用途 | SUSTAIN | LEVEL | 聞くポイント |
|---|---|---|---|
| 常時ON | 9〜10時 | バイパスと同音量 | 弱い弦が聞こえ、強く弾いた頭も残る位置 |
| 歪みの前 | 10〜12時 | 12時付近から調整 | 歪み量とノイズが増えすぎない位置 |
| ブースター寄り | 9時前後 | 12時より上 | SUSTAINより、後段へ送る音量を優先 |
| 長い単音 | 12時付近から | バイパスと同音量 | 音の伸びとノイズのバランス |
この表は手元の個体で気に入った位置です。ギターやアンプが変われば、同じ時計位置でも効き方は変わります。
鈴木茂さんの使い方にも納得できる
ギター・マガジンの機材解説では、鈴木茂さんの旅用ボードに2台のROSS Compressorがあり、1台目は常時ON、歪ませるときやサステインを伸ばすときは2台目もONにすると紹介されています。2台目のOUTPUTは12時が基本で、3時方向まで上げる場合もあります。
参考 鈴木茂が旅用に組み上げたミニ・ペダルボードギター・マガジンWEB実際にこのROSSを弾くと、鈴木茂さんが1台を常時ONにしている理由がよく分かります。SUSTAINを低くすると、派手なエフェクト音ではなく、ギターが少し弾きやすくなる方向へ整います。もう1台を重ねて歪みとサステインを増やす使い方にも納得できる音です。
鈴木茂さん自身が製作するC-2は、Maestro、MXR、ROSSを参考にした別のコンプレッサーです。ROSSの完全な複製ではありません。
旧規格電源と保護ダイオードの故障

PWRと書かれた小さな穴が電源端子です。現行ペダルの丸いバレル端子とは規格が違います。
入手時に壊れていたのは、電源の向きを間違えたときに回路を守るダイオードでした。交換した後、電源の向き、ショート、消費電流、周りの部品を確認し、無事に音が出ました。
このダイオードは、極性が逆になると自分に電気を流し、後ろの大切な部品へ逆向きの電気が届きにくくします。いわば身代わりになる部品です。ただし大きな電流が流れると、ダイオード自体が熱を持って壊れます。
古いROSSの3.5mm端子へ、極性の違う現行電源を変換プラグだけでつなぐのは危険です。この個体も逆極性の電源で壊れた可能性がありますが、以前の持ち主が何を接続したかまでは分かりません。
ROSS CompressorとDyna Compの違い
ROSS CompressorはDyna Compを土台に発展したペダルですが、同じ回路ではありません。手元のROSSは、強く弾いた瞬間を残しながら弱い音を持ち上げられる範囲が広く、常時ONの位置を作りやすく感じました。
Dyna Compとの仕組みや、1176系コンプレッサーとの操作の違いはこちらで整理しています。
まとめ
このROSS Compressorは、CTSポットの1377917、LEVEL表記、RCA CA3080E、松下2SC1849から、1979年製とみています。1979年にはLM3080N入りの個体もあるため、OTAだけで前期・後期を分けるのは難しそうです。
10台以上クローンを作った後でも、このオリジナルは手元に置いておきたくなります。傷の入ったグレー筐体も、RCA CA3080Eが見える基板も、修理して戻ってきた音も気に入っています。
使い方は難しくありません。SUSTAINを低くすれば常時ON、LEVELを上げれば歪み前のブースターになります。鈴木茂さんがプリアンプのように使うのも納得できる一台でした。
最大の注意点は旧規格電源です。この所有個体は3.5mmミニプラグの先端がプラスで、一般的な現行ペダル用センターマイナス電源とはそのまま接続できません。ヴィンテージ個体は通電前に実機の極性と修理歴を確認してください。
FAQ
- このROSS Compressorは1979年製ですか?
- ポットは1979年第17週に作られています。この個体が完成したのはそれより後です。LEVEL表記と内部部品も1979年の個体と合うため、1979年製とみています。
- CA3080EとLM3080Nで音は変わりますか?
- どちらも音量を自動で抑える役目を持つ部品です。ペダルの音は周りの部品や内部調整でも変わるため、IC一個だけでは決まりません。1979年には両方の搭載例があります。
- ヴィンテージROSS Compressorにはどの電源を使いますか?
- この個体には9V電池か、3.5mm先端プラスへ正しく変換した電源を使います。一般的な2.1mmセンターマイナス電源は直接つなげません。極性が分からない個体は、通電前に修理店へ確認してください。
- ROSS Compressorは常時ONで使えますか?
- 使えます。手元の個体はSUSTAINを9〜10時、LEVELをOFFと同じ音量にすると、弾き方の強弱を残したまま各弦の音量がそろいます。効きすぎる場合はSUSTAINを下げます。
- ROSS CompressorとDyna Compは同じ回路ですか?
- 別の回路です。ROSS CompressorはDyna Compを土台に発展しましたが、部品の値やつなぎ方に違いがあります。同じCA3080を使った個体でも、まったく同じ音にはなりません。

