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カート・コバーンの使用エフェクター24選まとめ

カート・コバーン 魂の叫びを増幅させたエフェクター24選

カート・コバーン――1990年代、Nirvanaのフロントマンとして音楽シーンに革命を起こした彼の名は、今なお多くの人々の心に深く刻まれています。彼の音楽は、グランジというジャンルを定義し、その魂である「生々しさ」「不完全さ」「怒り」「悲しみ」を世界中に叩きつけました。カートのサウンドは、単なるギターの音ではなく、彼の感情そのものでした。

そのサウンドの核となっていたのが、「静と動の劇的なダイナミクス」です。「Smells Like Teen Spirit」で聴けるような、静かなアルペジオから爆発的なディストーションリフへの移行は、Nirvanaの代名詞となりました。このダイナミクスを生み出す上で、彼が選び抜いたエフェクターたちは極めて重要な役割を果たしていました。高価な機材ではなく、ありふれた、時には「チープ」とさえ言われるペダルを駆使して、彼は誰にも真似できない魂の叫びを増幅させたのです。

この記事では、カート・コバーンが愛用したエフェクターを徹底的に掘り下げ、それぞれが彼のサウンドにどのように貢献したのかを、具体的な楽曲や有名なセッティング例と共に紐解いていきます。

カート・コバーン 使用エフェクター一覧表

彼のサウンドを形作ったエフェクター群を一覧にまとめました。機種名をクリックすると、各エフェクターの詳細解説へジャンプします。

機種名メーカーカテゴリー備考(主な使用時期・楽曲)
BOSS DS-1 DistortionBossディストーション彼の象徴。Nevermind期のメイン歪み。「Smells Like Teen Spirit」等。
BOSS DS-2 Turbo DistortionBossディストーションDS-1の後継機。In Utero期。「In Bloom」「Territorial Pissings」。
ProCo RAT DistortionProCoディストーションBleach期〜Nevermind初期。ファズ的な荒々しい歪み。「Love Buzz」。
Electro-Harmonix Big MuffElectro-Harmonixファズ太く迫力のあるファズ。「Lithium」のレコーディング等。
Univox Super-FuzzUnivoxファズBleach期以前のメインファズ。ザラついたトーン。
DOD FX69 GrungeDODディストーションその名の通りグランジサウンド。「Live and Loud」で使用。
Boss HM-3 Hyper MetalBossディストーションIn Uteroツアー期に短期間使用されたハイゲインペダル。
MXR M104 Distortion+MXRディストーション一部のライブで使用されたウォームな歪み。
Yung-Mann FuzzCustomファズ盗まれたSuper-Fuzzの代替としてギターテックが製作。
EHX Ram’s Head Big Muff V2Electro-Harmonixファズ特定のレコーディングセッションで使用されたとされる。
Chandler Tube DriverChandlerオーバードライブ初期ライブで借用。真空管のようなウォームな歪み。
Vox V829 Tone BenderVoxファズゲルマニウムファズ。一部で使用されたとされる。
Ibanez Soundtank FZ5 60’s FuzzIbanezファズBig Muff系のサウンドを持つ安価なファズ。
EHX Small Clone ChorusElectro-Harmonixコーラス彼の「静」を象徴。水のような揺らぎ。「Come As You Are」。
EHX PolychorusElectro-HarmonixモジュレーションIn Utero期のカオスなサウンドの核。「Heart-Shaped Box」。
EHX EH-1311 EchoflangerElectro-Harmonixフランジャー/ディレイPolychorusの前身。「Scentless Apprentice」等。
MXR Phase 100MXRフェイザー「Curmudgeon」のレコーディングで使用。
DOD FX62 Bass Stereo ChorusDODコーラス1990年頃のライブで使用されたベース用コーラス。
EHX The Clone TheoryElectro-HarmonixコーラスSmall Cloneの代替として試験的に使用。
EHX Deluxe Memory ManElectro-Harmonixディレイ温かみのあるアナログディレイ。レコーディングやライブで使用。
Arion SAD-1 DelayArionディレイ安価ながら温かいサウンドの日本製アナログディレイ。
Boss DM-2 DelayBossディレイスタジオやライブで使用。「If You Must」などで使用。
Tech 21 SansAmp ClassicTech 21プリアンプ/DIIn Utero期のメイン歪み。アンプシミュレーター。
Mr. Bill Pedal XCustomリングモジュレーターMXRペダル改造品。「Heart-Shaped Box」で使用。

カート・コバーンの使用エフェクター詳細解説

ディストーション / ファズ

BOSS DS-1 Distortion

カート・コバーンのサウンド、特に彼の「動」の部分を象徴する、最も有名なペダルです。アルバム『Nevermind』のレコーディングとツアーでメインのディストーションとして使用されました。「Smells Like Teen Spirit」のあの爆発的なリフは、このDS-1をFender Twin Reverbのようなクリーンなアンプに繋いで作られています。彼はアンプ自体の歪みを抑え、このペダルでディストーションサウンドを完結させるスタイルを確立しました。

セッティング例 (鉄板セッティング): TONE: 11時 / DIST: MAX / LEVEL: MAX。この過激な設定が、彼の攻撃的でありながらどこか切ないディストーションサウンドの秘訣です。

BOSS DS-2 Turbo Distortion

DS-1の後継機として、アルバム『In Utero』期からメインで使用されるようになりました。DS-1のサウンドに加え、より中域が強調され過激な歪みを生み出す「ターボモード」が特徴です。ライブでは、「In Bloom」「Territorial Pissings」などで、DS-1とは異なる、より密度の高いディストーションサウンドを聴かせました。ジョン・フルシアンテも愛用していることで有名です。

セッティング例: LEVEL: 2時 / TONE: 1時 / DIST: MAX / MODE: II (TURBO)

BOSS TURBO Distortion DS-2

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ProCo RAT Distortion

ディストーションとファズの中間のような、荒々しくザラついたサウンドが特徴のペダル。アルバム『Bleach』期から『Nevermind』の初期にかけて使用されました。特にNirvanaのライブ盤『From the Muddy Banks of the Wishkah』に収録されている「Love Buzz」や、「Territorial Pissings」のレコーディングでそのサウンドを聴くことができます。DS-1よりも粗暴で、コントロール不能な側面が彼の初期のサウンドにマッチしました。

PROCO RAT2 ディストーション

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Electro-Harmonix Big Muff

壁のように分厚く、サステインの長いファズサウンドを生み出す伝説的なペダル。カートは特に「Lithium」のレコーディングでこのペダルを使用したとされており、楽曲の持つヘヴィで重厚な雰囲気を演出しています。彼のディストーションサウンドのパレットに、DS-1やRATとは異なる「太さ」を加えました。

Univox Super-Fuzz

1960年代後半の日本のブランドUnivox(ユニヴァックス)による、非常に個性的なヴィンテージファズ。アッパーオクターブを含んだ、金切り声のようなザラついたトーンが特徴です。カートはNirvanaの最初期、アルバム『Bleach』以前のメインファズとして愛用していましたが、盗難に遭ってしまいます。このペダルのサウンドは、後のグランジシーンに大きな影響を与えました。

DOD FX69 Grunge

その名の通り、グランジムーブメントの真っ只中にリリースされたディストーションペダル。カートは1993年のMTV「Live and Loud」のパフォーマンスでこのペダルを使用しました。サウンドは非常にハイゲインで、ドンシャリ傾向の強い攻撃的なものです。彼がこのペダルをどの程度気に入っていたかは不明ですが、グランジの象徴として使用したパフォーマンスは伝説となっています。

Boss HM-3 Hyper Metal

90年代初頭のメタルシーン向けに作られたハイゲイン・ディストーション。カートは『In Utero』ツアー期に短期間使用していたことが確認されています。DS-2よりもさらにエッジが立ち、硬質なサウンドが特徴。彼のサウンド探求の一環として試されたペダルの一つです。近年、前身モデルのHM-2が技クラフトシリーズで復刻され、再評価されています。

BOSS/HM-2W Heavy Metal WAZACRAFT

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MXR M104 Distortion+

70年代から多くのギタリストに愛用されてきたクラシックなディストーション。ゲルマニウムダイオードによる温かみとバイト感のある歪みが特徴です。カートは一部のライブパフォーマンスで、メインのDS-1やRATとは異なるキャラクターの歪みとして使用しました。

MXR M104 DISTORTION+

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Yung-Mann Fuzz

前述のUnivox Super-Fuzzが盗まれた後、当時のギターテクニシャンであったアーン・ベイリー氏がカートのために製作したカスタムファズペダル。Super-Fuzzのサウンドを再現しようと試みたもので、『Bleach』以前のライブやレコーディングで活躍しました。市販品ではない、彼のサウンドを支えたユニークな一台です。

Electro-Harmonix Ram’s Head Big Muff Pi V2

Big Muffの中でも特に人気の高い、70年代初頭の「ラムズヘッド」期モデル。現行モデルよりもスムースで中域に寄った、ヴァイオリンのようなサステインが特徴です。カートが特定のレコーディングセッションで使用したとされており、彼のファズサウンドのバリエーションの一つと考えられています。近年、Electro-Harmonix自身によってリイシューされ、手に入れやすくなりました。

Chandler Tube Driver

内部に真空管を搭載し、リアルなチューブアンプのオーバードライブサウンドを再現するペダル。デヴィッド・ギルモアやエリック・ジョンソンの使用で有名です。カートは初期のライブで借用して使用したとされています。彼のメインの歪みとは異なりますが、サウンド探求の一端が伺えます。

Vox V829 Tone Bender Germanium Charged Fuzz

60年代の伝説的なファズ「Tone Bender」をVOXブランドがリイシューしたモデル。ゲルマニウムトランジスタによる、温かくヴィンテージなファズサウンドが特徴です。カートが使用したという記録は断片的ですが、彼のヴィンテージファズへの興味を示す一台です。

Ibanez Soundtank FZ5 60’s Fuzz

90年代にIbanezが展開していた、安価なプラスチック筐体の「サウンドタンク・シリーズ」の一つ。名前に反してBig Muff系の回路を持っており、チープながらも使えるファズとして一部でカルト的な人気がありました。カートが所有していたとされ、彼の「高価な機材でなくても良い音は出せる」という哲学を象徴するペダルです。

モジュレーション (Chorus / Flanger / Phaser)

Electro-Harmonix Small Clone Chorus

カート・コバーンの「静」のサウンドを象徴する、最も重要なペダルの一つ。「Come As You Are」のイントロで聴ける、あの水のように揺らめく美しいアルペジオはこのペダルによるものです。また、「Drain You」の静かなパートや、「Smells Like Teen Spirit」のクリーンパートでも効果的に使用され、楽曲の持つ物悲しさや切なさを演出しています。ライブでも不可欠な存在でした。

セッティング例: DEEPスイッチをON、RATEノブは12時前後。このシンプルな設定が、あの独特の揺らぎを生み出します。

Electro-Harmonix Polychorus

アルバム『In Utero』期の、よりカオティックで予測不能なサウンドを象徴するペダル。コーラス、フランジャー、ショートディレイ(スラップバック)、フィルターマトリックスが混ざったような、強烈でユニークなモジュレーション効果を生み出します。「Heart-Shaped Box」の狂気的なギターソロや、「Radio Friendly Unit Shifter」のノイズギターでその効果を存分に聴くことができます。このペダルを使いこなすことで、彼の音楽はより実験的でアーティスティックな領域へと進化しました。

Electro-Harmonix EH-1311 Echoflanger

上記のPolychorusの前身にあたる、70年代後半のヴィンテージペダル。フランジャーとショートディレイを組み合わせたエフェクトです。カートはPolychorusを手に入れる前にこのペダルを使用しており、「Scentless Apprentice」のイントロリフなどで、その独特の金属的な響きを活用しました。

MXR Phase 100

4段階のフェイズシフト切り替えを持つ、多機能なフェイザー。カートはシングル「Lithium」のB面に収録された楽曲「Curmudgeon」のレコーディングでこのペダルを使用しました。楽曲全体を覆う、温かく揺れるトーンが印象的です。

MXR M107 PHASE 100

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DOD FX62 Bass Stereo Chorus

ベース用に設計されたコーラスペダルですが、ギターに使用しても効果的です。カートは1990年頃の一部のライブで使用した記録が残っており、Small Cloneとは異なる、より柔らかいモジュレーション効果を楽曲に加えていました。

Electro-Harmonix The Clone Theory

Small Cloneと同じくElectro-Harmonix社のコーラスペダルですが、より多彩なコントロールが可能です。カートがメインで使用していたのはSmall Cloneですが、こちらも所有しており、サウンドの比較や試験的な用途で使われたとされています。

ディレイ / エコー

Electro-Harmonix Deluxe Memory Man

アナログディレイの金字塔。BBD素子による温かく、少しダークなディレイ音が特徴です。カートはレコーディングやライブで、サウンドに深みや奥行きを与えるために使用しました。特にソロパートや楽曲のエンディングで、幻想的な雰囲気を作り出すのに貢献しています。

Arion SAD-1 Delay

日本のブランド「Arion」による、安価ながらも質の高いアナログディレイ。プラスチック製の筐体で知られていますが、その温かいサウンドは多くのプロにも愛されました。カートもその一人で、高価な機材にこだわらない彼の姿勢を示す一台です。

Boss DM-2 Delay

BOSSが初期に製造したアナログディレイの名機。コンパクトで信頼性が高く、温かみのあるディレイサウンドが特徴です。カートはスタジオやライブで使用し、特に初期のデモ音源である「If You Must」でその効果をはっきりと聴くことができます。現在は技WAZA CRAFTシリーズで優れた復刻版が入手可能です。

BOSS/DM-2W Analog Delay 技 Waza Craft ボス

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その他 (プリアンプ / カスタム)

Tech 21 SansAmp Classic

アンプシミュレーター/DIの草分け的存在。アンプを通さずに、直接ミキサーやレコーディング機材に接続してもリアルなアンプサウンドが得られる画期的なペダルでした。カートはこれをアンプシミュレーターとしてではなく、『In Utero』のレコーディングおよびツアーにおけるメインの歪みペダルとして使用しました。DS-1やDS-2よりも太く、アンプライクで立体的なディストーションサウンドが、アルバムの持つ生々しい質感に大きく貢献しています。

現行ではキャラクターの近いGT2が販売されています。

Mr. Bill Pedal X

『In Utero』のプロデューサーであるスティーヴ・アルビニの所有物で、MXRのペダルを改造して作られたカスタムペダル。独特のリングモジュレーションとオーバードライブが混ざったような効果を生み出します。カートは「Heart-Shaped Box」のレコーディングでこのペダルを使用し、楽曲に異質な響きを加えています。

https://www.electricalaudio.com/pedals-1/p/mxr-modulation