パワーサプライの役割は音を良くすることではなく、音の劣化を防ぎエフェクターの性能を引き出すことです。
この記事では、プロの現場でも長く使える高信頼なモデルを「各出力の完全独立」「高出力」「信頼性」を軸に厳選。ノイズに強く、本当に使えるパワーサプライだけを紹介します。
なお、「ショート保護はあるが内部でグランドが繋がっている」タイプは、この記事では”完全独立型”(フルアイソレート)とは見なしません。
スイッチング電源 vs トランス電源:結局どっちがいいの?
パワーサプライには、大きく分けて「スイッチング電源」と「トランス電源」の2つの方式があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、特徴を理解して自分に合ったものを選びましょう。
スイッチング電源(SMPS: Switching-Mode Power Supply)
現代のパワーサプライの主流となっている方式で、エフェクターに直接接続するACアダプターはスイッチング電源に分類されます。
高周波スイッチング技術により、小型・軽量で高出力なモデルが多いのが特徴。
海外対応や拡張性に優れる一方、質の低い製品はノイズの原因になることも。
そのため、各出力の独立性やノイズフィルターの品質が非常に重要になります。
トランス電源(リニア電源)
古くから音響機器で信頼されている、大型トランスを使用した方式です。
構造的にノイズが発生しにくく、サウンドの静けさを重視するプレイヤーに人気があります。
ただし、大きく・重く・高価になりやすいのが難点。
近年はスイッチング電源の性能も向上しており、一概にどちらが優れているとは言えません。
結論:薄さ・軽さ・拡張性を求めるならスイッチング電源、AC電源の同居や絶対的な静けさを求めるならトランス電源が候補になります。どちらを選ぶにせよ、「各出力が完全に独立していること」を大前提に比較するのが失敗しないコツです。
定番パワーサプライ比較表:高信頼パワーサプライ14選
画像 | 製品名 | 発売時期 | アイソレート | アウトプット | 総電流容量 | 対応電圧 | 寸法 (mm) | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() | VITAL AUDIO VA-08 MkII | 2018年 | 完全独立 | DC×8 | – (付属アダプター2A) | 9/12/18V | 140×70×30 | FCLS保護回路 |
![]() | VITAL AUDIO VA-05 MkII | 2023年 | 完全独立 | DC×5 | 2000mA | 9/12/18V | 115×60×22 | コンパクト設計 |
![]() | VITAL AUDIO VA-15 AC | 2023年 | 完全独立 (DC部) | DC×11 / AC×3 | 3000mA | 9/12/18V | 240×85×45 | AC出力搭載(3芯対応) |
![]() | CAJ DC/DC Station II | 2013年 | 完全独立 | DC×5 | 1000mA | 9V | 112×61×23 | 世界電圧対応アダプター |
![]() | K.E.S KIP-V.A.C.9 | – | 完全独立 | DC×9 | – (付属アダプター3A) | 6.5-18V | 140×70×30 | 無段階電圧可変ポート×3 |
![]() | K.E.S KIP-AC208MS | – | 完全独立 (DC部) | DC×8 / AC×2 | – | 9/12/18V | 240×54×30 | AC出力搭載 |
![]() | One Control Distro MKII Isolated | 2023年 | 完全独立 | DC×10 | 2000mA | 9V, 12-18V(SAG) | 117×55×36 | SAG機能(電圧降下) |
![]() | Ex-pro PT-1 | – | 完全独立 | DC×6 / AC×4 | – | 9V | 270×90×50 | トランス電源、AC出力搭載 |
![]() | Free The Tone PT-3D | 2017年 | 一部独立 (2系統) | DC×8 | 2000mA | 9V | 120×55×35 | 起動時ピーク電流対応 |
![]() | Free The Tone PT-5D | 2019年 | 一部独立 (2系統) | DC×8 / AC×3 | – | 9V | 206×55×35 | AC出力搭載 |
![]() | Strymon Ojai R30 | 2016年 | 完全独立 | DC×5 | 2500mA | 9/12/18V | 130×58×29 | 拡張リンク対応、薄型 |
![]() | Strymon Zuma | 2016年 | 完全独立 | DC×9 | 4500mA | 9/12/18V | 173×84×46 | 拡張リンク対応、大容量 |
![]() | Voodoo Lab Pedal Power 3 PLUS | 2020年 | 完全独立 | DC×12 | – (大容量) | 9/12V | 222×86×38 | X-LINK拡張ポート |
![]() | CIOKS DC7 | 2019年 | 完全独立 | DC×7 | 42W (9V時:約4660mA) | 9/12/15/18V | 160×88×25.4 | 超薄型、USB/24V出力、拡張性 |
各モデル詳細レビュー:高信頼パワーサプライ14選
VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-08 MkII
現代のペダルボード事情にマッチした、完全独立型の代表格。9V/500mA×6ポートと、電圧を切り替えられる800mAポート×2という構成は、まさに「これこれ!」と言いたくなる実用性。アナログペダルと消費電力の大きいデジタルペダルが混在する、イマドキのボードに一台で対応できる頼れる存在です。コンパクトな筐体と信頼性の高い保護回路も備え、迷ったらまずコレをおすすめします。
VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-05 MkII
「小さいボードでも、電源の質は妥協したくない」という声に応える一台。5ポートながら、全出力がグランドまで分離された完全独立設計です。可変電圧ポートも2つ備え、合計2,000mAの大容量で見た目以上にパワフル。コンパクトボード用の「最適解」と言えるモデルで、サブボード用としても絶大な安心感を誇ります。
VITAL AUDIO POWER BASE VA-15 AC
DC出力のクリーンさはそのままに、AC100Vアウトレットを3つも搭載した「電源ハブ」。DC出力も11ポートと豊富で、ペダルボードだけでなく、専用アダプターが必要な機材やスイッチャーまでこれ一台で一括管理できます。特にツアーや頻繁な移動があるギタリストにとって、システム全体をスマートにまとめられるこのモデルは強力な味方になるでしょう。
CUSTOM AUDIO JAPAN DC/DC Station II
CUSTOM AUDIO JAPAN カスタムオーディオジャパン エフェクター用パワーサプライ DC/DC Station II (アダプ…
日本のプロの現場で絶大な信頼を誇るCAJが手がける、完全独立型のパワーサプライ。海外ツアーにも対応できるユニバーサル電圧のアダプターが付属するのが大きな特徴です。スリムな筐体はボードの隙間にも収まりやすく、まさにプロのツールといった風格。音質と現場での使いやすさを両立させたいなら、間違いのない選択肢です。
K.E.S KIP-V.A.C.9
K.E.S (ケーイーエス) ボルテージアジャスト 機能付き フルアイソレーテッド パワーサプライ KIP-V.A.C.9
電圧を無段階で調整できるポートを3つも備えているのが非常にユニーク。FUZZの電池が減った時の独特なサウンドを再現したり、ペダルの隠れたポテンシャルを引き出したりと、音作りの探求心をくすぐります。もちろん、残りのポートは電圧が安定するよう設計されており、「グラウンドまで完全個別」と明記されている安心感も魅力です。
K.E.S KIP-AC208MS
K.E.S (ケーイーエス) ボルテージセレクト 機能付き フルアイソレーテッド AC/DC マルチパワーサプライ PSE…
ACコンセントを2つ搭載したハイブリッドタイプ。DC側は8ポートで、こちらも各出力がグランドレベルで分離されていることが示されています。マルチエフェクターや真空管プリアンプなど、専用アダプターが必須の機材とコンパクトペダルを混在させるシステムに最適。ボード上の電源周りをこれ一台で完結させたいギタリストにぴったりです。
One Control Minimal Series Distro MKII Isolated
One Control ワンコントロール Distro MKII Isolated | 完全独立型 パワーサプライ コンパクトペダル
「全出力完全独立」を掲げる、コンパクトなパワーサプライの決定版。その小ささからは想像できないほどパワフルで、10個の出力とSAG機能(電圧降下)まで搭載。国内外の多くのプロギタリストが足元に採用していることからも、その実力は折り紙付き。“小さくて強い”を求めるなら、まず候補に挙がる一台です。
Ex-pro PT-1 Power Transformers
スイッチング式が全盛の今、あえてトランス方式を選ぶギタリストに愛され続ける名機。ずっしりとした重量は、ノイズに対する絶対的な安心感の証でもあります。そのサウンドは極めて静かで、ギターの音そのものの質感を大切にしたいプレイヤーから絶大な支持を得ています。AC/DC両対応で、現場での対応力が高いのも見逃せないポイントです。
Free The Tone PT-3D
プロの現場を知り尽くしたFree The Toneならではの、非常にクレバーな設計が光る一台。消費電力の大きいデジタルペダル用に完全独立ポートを2つ、その他アナログペダル用にローノイズポートを6つ用意するという二段構え。特に独立ポートは、起動時に大電流を必要とするペダルの挙動まで計算に入れています。全てが独立ではないですが、実に実践的な一台です。
Free The Tone PT-5D(AC POWER DISTRIBUTOR with DC)
Free The Tone/PT-5D AC POWER DISTRIBUTOR with DC POWER SUPPLY
PT-3Dの実践的な思想をさらに発展させ、ACアウトレットを3つ追加したモデル。大きなACアダプター同士が干渉しないよう配置が工夫されているなど、細部まで現場のニーズが反映されています。スタジオやステージで、複雑なシステムをスマートに運用したいギタリストにとって、VA-15 ACなどと並ぶ有力な選択肢です。
Strymon Ojai R30
Strymon 『Ojai R30 』(9V/12V/18V対応ハイ・カレント・ DC パワー・サプライ) [国内正規品]
ハイエンド・デジタルペダルの代名詞、Strymonが作るパワーサプライ。全5ポートがそれぞれ500mAの高出力を誇る完全独立設計で、Strymonペダルを複数台使うような現代的なボードに最適です。さらに、別売りのケーブルでZumaや他のOjaiと連結してポートを増やせる拡張性の高さも大きな魅力。ボードの成長に合わせて電源を強化できるのは、長く使う上で非常に心強いです。
Strymon Zuma
Strymon Zuma 拡張可能高電流ギターエフェクト DCペダル電源 9V、12V、18Vギターペダルとペダルボード用
Ojaiの兄貴分にあたる、大規模ボード向けの決定版。9つのポート全てが500mA、完全独立という圧倒的なスペックを誇ります。もちろんOjaiシリーズとの連携も可能で、どんなにペダルが増えても対応できる懐の深さが魅力。静粛性、安定性、パワーの三拍子が最高レベルで揃った、まさにハイエンド電源の基準点と言えるモデルです。
Voodoo Lab Pedal Power 3 PLUS
パワーサプライの老舗、Voodoo Labが長年のノウハウを注ぎ込んだ最新モデル。軽量コンパクトながら12ポートもの出力を備え、ノイズを一切発生させないという強い意志が感じられる設計です。世界中のプロの足元で活躍し続けるブランドの信頼性は絶大。迷ったらこれを選んでおけば間違いない、と言える”ド定番”です。
Voodoo Lab Pedal Power 3 PLUSはAmazonでの取り扱いはありませんでしたが、いくつかのサイトで取り扱いが見られました。
また、同メーカーのVoodoo Lab Pedal Power 3は多数取り扱いが見られました。
CIOKS DC7
驚くほど薄いのに、信じられないほど多機能な一台。7つのポートはそれぞれ電圧を4段階に切り替えられ、9V時には最大660mAという高出力を実現。USB充電ポートや拡張用出力も備えており、もはや単なるパワーサプライではなく「電源プラットフォーム」と呼ぶべき存在です。将来的なシステムの変更にも柔軟に対応できる、未来志向のモデルです。
「アイソレート」の落とし穴:グランド共通と完全独立の違い
「各出力にショート保護付き」と書かれていると、全てが独立しているように聞こえます。しかし、実際には内部でグランド(マイナス線)が繋がっているだけの製品も少なくありません。この場合、ショートしたペダル以外は動き続けますが、グランドを通じてノイズが行き来してしまう可能性は残ります。
この記事で紹介しているモデルは、メーカーが「完全独立」「フルアイソレート」「グラウンドまで個別」と明言しているか、それに準じた設計であることが確認できるものだけを厳選しました。ノイズ問題を根本から解決するには、この「グランドまで分離されているか」が決定的に重要なのです。
10年以上、機材の心臓部を任せるためのチェックポイント
- 電源の余裕(ヘッドルーム):ペダルの消費電流ギリギリではなく、常に7~8割程度の負荷で使える容量を選びましょう。特に夏場のライブなど、過酷な環境での安定度が格段に上がります。
- 熱対策:筐体全体で放熱する設計になっているか、ファンが付いているかなど、熱対策も重要。高密度なボードでは、電源自体の発熱も無視できません。
- 保護回路:ショート、過電流、過熱など、複数の保護回路が搭載されているモデルほど、万が一のトラブル時に他の大切な機材を守ってくれます。
- 拡張性:StrymonやCIOKSのように、後からポートを増設できるシステムは、将来ペダルが増えた時にも対応できるので非常に便利です。
- AC電源の必要性:専用アダプターを使う機材がボードにあるなら、ACアウトレット付きのモデルを選ぶと、配線が劇的にスッキリします。
- 海外での使用:海外ツアーの可能性があるなら、100-240V対応は必須。信頼できるメーカーの製品は、各国の安全規格に対応している点でも安心です。
ノイズを減らすための配線術:基本のキ
- 分岐ケーブルは使わない:せっかくの独立電源の意味がなくなってしまいます。ペダル一つにつき、一つのポートを使いましょう。
- デジタルペダルは高電流ポートへ:特にStrymonやEventideなどは高電流であるため、必ず指定された電流を供給できるポートに接続してください。
- 可変電圧は自己責任で:FUZZの電圧を下げて独特の音を狙うのは面白いですが、必ずペダルの許容範囲内で行いましょう。
- AC電源の管理:ACアウトレット付きのモデルを使う際は、壁のコンセントやアースの状況もサウンドに影響します。
あなたに合ったパワーサプライはこれだ!
- 薄型・万能・拡張性重視なら:CIOKS DC7、Strymon Ojai R30
- 大規模ボードを一括で、とにかく静かに:Voodoo Lab Pedal Power 3 PLUS、Strymon Zuma
- 安心の国産、AC電源も欲しいなら:Ex-pro PT-1、Free The Tone PT-5D、VITAL AUDIO VA-15 AC
- コンパクトボードの最強パートナー:VITAL AUDIO VA-05 MkII、One Control Distro MKII Isolated
- 電圧をいじって音作りを楽しみたいなら:K.E.S KIP-V.A.C.9