ロンドン発のギタリスト/プロデューサーTom Mischは、クリーンかつウォームなトーンでネオソウル・ジャズ・ヒップホップを横断するサウンドを確立しています。筆者は長年ステージと開発現場の双方でペダルと向き合ってきた立場から、公開情報・インタビュー・SNS投稿を精査し、彼の主要エフェクターを網羅的に整理しました。クリーン主体ながらも巧みなペダルワークで音に立体感を生む手法は、機材選定の好例と言えるでしょう。
Tom Misch(トム・ミッシュ)とは?
1995年生まれ。2018年のアルバム『Geography』以降、ジョン・メイヤー以降世代のギタリストとして国際的に認知され、星野源との共作でも国内人気を拡大しました。
使用してるギターとアンプ
- Fender John Mayer Signature Stratocaster(メイン)
- Gibson ES‑335 Sunburst(セッション用)
- Fender ’65 Deluxe Reverb Reissue(真空管アンプ)
- Kemper Profiler Stage(デジタルプロファイラー)
クリーンの基音を確保しつつ、ペダルで質感を整える“アンプ+足元”バランスが特徴です。
サウンドの特性
大きくは①クリーン+軽いドライブ、②空間系での包み込み、③エンベロープ系でのグルーヴ形成に分類できます。以下では23基のエフェクターをカテゴリー別に整理します。
ダイナミクス/コンプレッサー
Fender The Bends Compressor
メーカー説明
ナチュラル系コンプレッサー。DRIVE/RECOVERYでアタック・リリースを容易に設定。
製品説明
常時ONでレベル均一化。クリーンピッキングの粒立ちを整え、オートワウやディレイの前段に置いて信号処理を安定化。
オーバードライブ/ファズ
Ibanez Tube Screamer Mini
メーカー説明
TS808系回路をミニ筐体で再現。ミッドブーストが特徴。
製品説明
クリーントーンのエッジ強調用にゲイン10〜11時で使用。アンプを押し出し、ジャジーなコードでも明瞭度を維持します。
Fredric Effects Zombie Klone
メーカー説明
Klon Centaurクローン。透明感重視の回路構成。
製品説明
ソロブースターとして採用。原音に近いトーンを保ちつつ0.5〜1段階音量を持ち上げる“立ち上がりの太さ”を獲得します。
Analog Alien Rumble Seat
メーカー説明
OD・ディレイ・リバーブを1筐体に実装。ステージの省機材化に寄与。
製品説明
小規模ギグでメイン機材に。リバーブ&ディレイを時短セッティングし、ボードをコンパクト化。
Analog Alien Fuzzbubble‑45
メーカー説明
“1966”ファズ/“1974”ODの2モードを切替可能。
製品説明
制作段階でサイケデリックな質感が必要な際に導入。ファズは曲中スポット利用、ODは骨太リードに活用。
Fjord Fuzz Odin
メーカー説明
オクターブアップ切替付きファズ。ハンドメイドで倍音豊富。
製品説明
2024年SNS投稿でボード入りを確認。クライマックスのアクセントとしてオクターブファズを瞬間的に挿入。
日本ではなかなか見かけないエフェクターかもしれません。
One Control Strawberry Red Overdrive
ワンコントロール One Control Strawberry Red Overdrive 4K オーバードライブ ギターエフェクター
メーカー説明
BJFe設計の昇圧ヘッドルームOD。甘く滑らかな歪みが特徴。
製品説明
クリーミーなドライブ質感を求めるR&B曲で選択肢に。ミニサイズゆえボード増設時の物理的余裕を確保。
Xotic EP Booster
メーカー説明
往年のEchoplexプリアンプ回路を再構築したクリーンブースター。
製品説明
ストラトのシングルコイル出力を補強し、ライン全体の“艶”を向上。Zombie Kloneとはキャラクターを分散させ運用。
モジュレーション/テープサチュレーション
ZVEX Instant Lo‑Fi Junky
Z.VEX ジーベックス エフェクター Vexter Series ヴィブラート INSTANT Lo-Fi Junky 【国内正規品】
メーカー説明
レコード的ワウ&フラッターを付加するコンプレッション内蔵モジュレーション。
製品説明
アルバム『What Kinda Music』で採用。ビブラートを薄掛けし、テープライクな揺らぎを意図的に導入。
Strymon Deco
メーカー説明
テープサチュレーション+ダブルトラッカーを搭載。ADT/スラップバックも生成。
製品説明
クリーンに僅かなサチュレーションを与え、Mid‑Side的広がりを付加。ライブでは右チャンネルのみADTを掛けステレオ感を強調。
MXR Phase 90
メーカー説明
1974年以来定番の4ステージ・フェイザー。SPEEDノブのみで直感操作。
製品説明
インタビューで「70s感を出すために軽くフェイズを掛ける」と言及。コードバッキングに2段階の揺らぎをプラスし、空間系と相乗効果を得ています。
Electro‑Harmonix Pitch Fork
electro-harmonix エレクトロハーモニクス エフェクター ポリフォニックピッチシフター Pitch Fork 【国内…
メーカー説明
+/−3オクターブまで連続ピッチシフトが可能なポリフォニック・シフター。
製品説明
Nano POGより広いレンジを要するパッド系アレンジで採用。Freezeを組み合わせオクターブ上パッドを生成し、ビートレス曲に高域の空間を付加。
空間系ペダル (リバーブ/ディレイ)
Strymon BigSky(リバーブ)
メーカー説明
12タイプのリバーブ・アルゴリズムを搭載したStrymon社のフラッグシップ。スタジオクオリティのShimmer Reverbを含み、プリセット呼び出しも迅速です。
製品説明
ライブ・レコーディングを問わず“常時薄掛け”で使用。楽曲のダイナミクスを崩さずに残響を付与し、ソロではCloudモードで空間全体を包み込みます。
BOSS DD‑7 Digital Delay
メーカー説明
最大6.4秒のディレイとモジュレーション/アナログ・モードを内蔵。タップテンポでBPM同期が可能。
製品説明
最新版はDD-8です。デジタル系のエフェクターは古いほうがいいことはあんまりないかと思いますので、わざわざDD-7を選ぶ必要はないでしょう。
8分ディレイをリズムに乗せるテープスラップ的使い方から、ソロの厚み付けまで幅広く活用。BigSkyと直列接続し、残響とエコーを役割分担しています。
ループ/サンプラー
BOSS RC‑30 Loop Station (最新版はBOSS RC-500)
BOSS ボス ループステーション 2トラックルーパー RC-500 最大13時間録音 バックライト付きLCD搭載 XLRマイ…
メーカー説明
2トラック独立録音・最長3時間ループに対応。USB経由でフレーズをPC保存可能。
製品説明
すでにRC-30は廃盤のようで、最新版はBOSS RC-500です。
ソロ・セットではリズムカッティング→アルペジオ→メロディと多層録音し、リアルタイムでバンド構築。フレーズ切替をペダル2基で迅速に行います。
BOSS RC‑3 Loop Station(最新版はRC-5)
メーカー説明
99メモリ・最長3時間録音をコンパクト筐体に収めたシングルトラック・ルーパー。
製品説明
リハーサルや小規模セッションでの省スペース構成時に採用。RC‑30と操作性を統一しているため現場切替もスムーズです。
すでにRC-3は廃盤で、RC-5が最新版です。
エンベロープ/ピッチ系
Moog Moogerfooger MF‑101 Lowpass Filter
メーカー説明
アナログ・ローパスフィルター+エンベロープフォロワー。レゾナンス付きでシンセライクな変化。
製品説明
ファンク系カッティングでピッキング強度に比例したワウ効果を生成。大型筐体ゆえツアーでは後述のFilter Twinにスイッチする場合があります。
Aguilar Filter Twin
メーカー説明
上昇/下降2基のフィルターを同時動作させるデュアル・エンベロープフィルター。
製品説明
MF‑101代替としてボードを省スペース化。ツインフィルター独特の“クォーク”音がリズムの推進力を高めます。
ベース用のエフェクターですが、ギターにも使えます。
BOSS Dynamic Filter FT‑2
メーカー説明
1980年代製のオートワウ。感度・時間軸を細かく設定可能。
製品説明
ヴィンテージ志向の楽曲で採用。温故知新的なフィルタートーンがコンテンポラリーなバックトラックに映えます。
あんまり売れなかったらしく、発売から2年で廃盤になっているレアエフェクターです。
近いものは下記です。
Electro‑Harmonix Nano POG
メーカー説明
ポリフォニック・ピッチシフター。+1/‑1オクターブを原音と自在にブレンド。
製品説明
ルーパーで録音したコード進行に‑1 octを加えベースパートを補完。ギター単体で周波数レンジを拡張しています。
Electro‑Harmonix Freeze
メーカー説明
入力信号を無限保持するサウンドリテイナー。ラッチ/モーメンタリ切替が可能。
製品説明
バラードで虚無感を演出するパッド的持続音を構築。BigSkyのInfinite設定と併用し、後段に置くことで音像を明確に分離させています。
ユーティリティ
BOSS TU‑3 Chromatic Tuner
メーカー説明
屋外可視性の高い21セグメントLED搭載。フラットチューニング対応。
製品説明
信号を常時モニターし、演奏間のミュート&チューニングを高速化。ボード全体の信号フロー安定に貢献。バッファも優秀らしいです。
BOSS NS‑2 Noise Suppressor
メーカー説明
ループ式ノイズゲート。Threshold/Decay調整で自然なノイズ低減。
製品説明
シングルコイル使用時のハムをコントロール。残響が長いアンビエント曲でも静寂を確保し、PAへの不要ノイズ流入を防ぎます。
よくある質問
Q1 : Tom Mischの特徴的な“ワウ”はペダルを踏んでいるのですか?
A : ほとんどがエンベロープフィルター(Moog MF‑101/Aguilar Filter Twinなど)による自動ワウです。ピッキング強度に反応するため、足でペダルを操作する必要がありません。
Q2 : ライブでの分厚い低音はどのペダルで作っていますか?
A : Nano POGで−1オクターブを足し、ルーパーで重ね録りする方法がメインです。必要に応じてPitch Forkで更に広域シフトを併用します。
Q3 : ノイズが少ない理由はアンプ設定でしょうか?
A : アンプ設定だけでなく、NS‑2でハムノイズをゲートし、チューナーミュート時に完全無音化する運用が効果的です。ステージ後段のノイズ蓄積を回避しています。
BigSkyとDecoを同時に使用する際は、Deco後段にBigSkyを配置するとサチュレーション→残響の順で自然な空気感が得られます。
以上、公開ボード写真・インタビュー・SNSを基に整理した23基のエフェクターをご紹介しました。クリーン重視のサウンドでありながら、各カテゴリに最適なペダルを配置し、演奏シーンに合わせて機材を柔軟に入替える点がTom Mischの機材哲学です。自社製品を含め多角的にペダルを検証してきた立場から見ても、特定ブランドに偏らないバランス感覚はプロアーティストならではの選定と言えるでしょう。導入を検討する際は、機能面だけでなくサイズ・信頼性も踏まえて選択されることを推奨します。